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第394話「好きって」*奏斗

「好き……て」  好きって。何……好き?  何かを言おうとした、その時、だった。  ガチャ、とドアが開いた音。こんな瞬間だったのですごく驚いてしまって、咄嗟に振り返ると小太郎だった。 「あ、ユキ居たー」何だか寝ぼけ声で言いながら、近づいてくる。 「びっくりしたじゃん、居ないからーって四ノ宮も居たの? なにしてんの?」 「あ。うん。ちょっと、水飲んで……」 「そっか。早く寝ようよ、ユキ、腹痛かったんだし、ちゃんと寝なきゃだろ」 「あ、うん。そう、だよね」  どうしよう、と思いながらも、小太郎に腕を引かれて立ち上がらされてるオレを見て、四ノ宮はにっこりしながら、いいよ、と口だけで言った。  目を合わせて、ん、と頷くだけ頷いて、オレは、小太郎に引かれながら、部屋まで歩く。 「ユキ、もしかして全然寝てないの?」 「うん。なんか、眠れなくて」 「四ノ宮も?」 「オレは少し寝て起きたとこなんで」 「そっか。明日も朝からグループワークだし、早く寝よ」  静かな声で話しながら、部屋のドアを開ける。小太郎が先に入って、ふすまを開けて、自分の布団に倒れた。  部屋に入る前に、四ノ宮がオレのすぐ隣にきて、オレを見つめた。 「さっきのはまたちゃんと話すから。あと、帰りのことは、任せる。考えて」  それだけ、こそ、と伝えて、四ノ宮はオレが頷くのを確認すると、にこ、と笑って見せて、部屋の奥の方に入っていった。  オレも小太郎の隣の布団に入って、おやすみーと言ってくる小太郎に、おやすみ、と返した。  そのまま、ドアの方を向いて、さっきの会話を考える。 『好きだから、大事にしたいし、一緒に居たい』  ……嫌われてるとは、思ってはなかった。嫌いな奴にはあそこまで構わないだろうとは思うし。  でも、あんな風に、「好きだから」なんて、普通言う? と考えてしまう。  好きだからなんて、はっきり言葉にされると、なんだかすごく驚く。  …………好き?  どういう意味……??    好き。  ……好き?  好きって、四ノ宮……。  何だろう。――――……そういう、意味?  さっきのまっすぐな視線を、思い出す。  とく、と、鼓動を感じる。  何だろう。  ……なんか。ドキドキ、する? 「――――……」  手を握って、口を押える。  好き。……すき?  あれ。でも。  ……四ノ宮、男には興味ないって言ってたよな。  ……てことは、違う? 好きって、違う意味か。ただ好きってこと?  先輩としてとか。人として?  あ、そっちかな……。でもそれって、あんな風に言う……?  …………ちょっと待って。落ち着け。  自分に向けて唱えてしまう。静かに、深呼吸。  ……でもどう考えても、そういう意味で、オレを好きって。  全然、分かんないよな。  ……オレ、特に、四ノ宮には、変なところばっかり見せてる。  和希とのことも、その後トラウマみたいになってることも知られてるし。  それで恋なんかいらないって言って、してたことも、全部四ノ宮は知ってる。泣いたり、媚薬盛られたり、和希に会って動けなくなったり、正直、オレってば、四ノ宮にはみっともないところしか見せてないよな。  ……好き、なんて、ある???  そういう意味の好きじゃない、よな。  てことは。やっぱり、人として?  ……それですら、ちょっと良く分かんない。オレ、いいとこ、無くない??  先輩として、もうちょっと、色々やってあげてて、とかならまだしも、むしろ、世話されてるのって、オレなんじゃ……?  …………って、考えれば考えるほど、さっきの「好き」の意味は、分からなくなっていく。  何で、「好き」なの、オレのこと。分からない。  あんなにまっすぐに、見つめて、人に好きっていうのって何。  「好き」  ……でも。なんか。  さっきの四ノ宮の、まっすぐな瞳を思い出すと。  なんだか。心がじんわり。する。少し、とくとく鼓動が早くて……喜んでる、みたいな。  ……どんな意味かは、分からないけど。  人に知られたくないようなことも全部知ってる四ノ宮が、言ってくれた、から。  ……なんか。それが、どんな意味だとしても。  すごく――――……嬉しい、ような……。  思った瞬間、ふ、と涙が滲んで。  あれ? と瞬きをする。  泣きそうなのがばれないように、静かに息をして。   オレは、瞳を閉じた。  結局、全然眠れなくて。  相当遅くに、ようやくうとうと、眠りについた。

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