389 / 542
第395話「頭から離れない」*奏斗
翌朝。
「まだ寝てる奴そろそろ起きろ~」
そんな声で起こされた。
うわー。超寝不足っぽい。……仕方ない、ほとんど眠れなかった。二時間くらいは寝れたかなぁ……?
「ユキ、眠そう」
体だけ起こした状態で、出入り口付近でぼーっとしてるからか、皆に声をかけられる。適当に頷いていると。
「大丈夫ですか?」
もう今となっては、ここの誰よりも聞き慣れた声がして、見上げると、寝不足の原因を作った当人が、ふ、と苦笑を浮かべる。
「眠そうですね」
……っ。
なんかめちゃくちゃ涼しい顔で、イケメンぽい覗き方してくるけど、どう考えてもこの寝不足は、四ノ宮のせいなんですけど……。
なんかムカつく。自分だけ涼しい顔……。
好きだから。
て言った時の四ノ宮が重なって、何だか呼吸が止まる。
四ノ宮には特に答えず、のそのそ動いて荷物からタオルを出して、立ち上がる。洗面台で顔を洗って、歯ブラシをくわえたら、四ノ宮も同じように歯ブラシをくわえて並んでくる。
「眠れなかったの?」
「……うん」
「まあ、今日早く寝れば何とかなるかな。明日学校ですもんね」
「……ん」
歯磨きしながら、そんな会話。
つか……お前のせいだけど。
何なの、全然普通でさ……。
「眠れなかったのって……何で?」
「…………」
……お前だよ、お前。
急に真面目な顔で、好きだからとか言われたら、意味わかんなくて……。
思わず眉が寄ると、四ノ宮が、くす、と笑う。
何笑ってんだよー、と思ったら。
「……あれ、どんな意味でも、だからね」
と、また意味の分からないことを。
……というか、オレが、どういう意味って、考えてるのを知られてるみたいな、そんな訳ないのに、本当に意味が分からないセリフを言って、オレを斜めに見つめてくる。
もう無理。
オレは四ノ宮から視線を逸らして手早く歯磨きを済ませた。四ノ宮から離れて布団に戻って着替えを済ませようと上を脱いだ時。同じく部屋に戻ってきた四ノ宮が、あ、と声を出して、オレの横で止まって、「塗り薬は?」と聞いてくる。咄嗟に枕元に置いてあった昨日の薬を見ると、四ノ宮はそれを拾い上げて、蓋を取る。
「後ろ向いてください」
言われて、もうここで拒否るのも変かなと、仕方なく後ろを向くと、うなじのところに薬を塗られる。なんか。……何でか、ちょっと、緊張する。
……何で緊張するんだ、オレ……。
とにかく早く塗り終わって。
固まってると、す、と手が離れて、ほっとする自分。……何。もう。
「はい、オッケーです。昨日よりは、赤くなくなってるかも」
「……ありがと」
薬を受け取って、離れてく四ノ宮を見ながら、そのまま、Tシャツを頭からかぶった。
「四ノ宮ってほんと面倒見いいよな」
隣にいた小太郎が、しみじみと言いながら笑っている。はは、と少し笑っておいた。
……確かに、ほんとに面倒見がよすぎて。
お母さんかよ、とツッコミ入れてたもんね。
前世は多分ホストで、今はブラック四ノ宮で宇宙人で、世話焼きお母さんで、一号で、馬鹿宮でキモ宮で……。ほんと。意味分かんない。
でもって。
……オレのことを、好きだって、言ったりする。
何が? どこが??
ため息とともに、首を傾げてしまいながら、とりあえず、服とか荷物を整理していると朝食に呼ばれて、皆で食堂に向かう。たまたま近くに座った隆先輩に、ほんとにごめん、と謝られたけど、どうやら本人は覚えていないらしくて、周りの先輩達が、死ぬほどツッコミを入れてくれていた。
「ファーストキスじゃなかった?」
心配してるんだか、ふざけてるんだか分からない隆先輩の声に、「違うんで大丈夫です」となるべくすっぱり答えると、周りがどっと笑う。
「ユキが初めてな訳ないじゃん」
「そーだよなぁ、あほか」
「バレンタインのチョコすごかったの知ってるだろ」
先輩たちが言うのは、一年の終わりのバレンタインの話。
確かにたくさんもらったけど……仲良しチョコみたいなのも多かったと思うし。
どうせ、オレのキスの相手が、男なんて思う人は、ここには居ない。四ノ宮以外は、オレが女の子とキスしたことないなんて、思わない。人は、大体自分の常識内でしか、物事を、考えないから。
オレの常識は、相手が男。女の子は、オレにとっては、ありえないんだけど。
……皆、自分の常識で、考える。
大抵の奴は、その中から出ないで暮らしてく。
四ノ宮の、常識は? って考えると。
話すようになった頃、男に興味ないって言ってたのを覚えてる。オレと何回寝たって執着なんかしないって。それは、オレが男だからであって……。
四ノ宮の常識は、オレのとは違うと思う。
四ノ宮の「好き」に、恋愛の「好き」は入らない。……よね?
好きを勘違いしてしまいそうな雰囲気で、伝えてくるから。
なんか。……頭から、離れない。
ともだちにシェアしよう!