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第396話「胸の真ん中」*奏斗
大体いつもいつも、奏斗が奏斗が、て言いすぎだし、一緒に居ようとしすぎ。
……何であんなにずっと一緒に居たいって言うんだろ?
なんかちょっとは、距離感おかしいとは思っていたのだけど。
こうして、ここに皆が居て、物理的に距離をとってみてると。
いつもがどれだけ近いかが、分かるというか。
四人掛けで隣に座るとか普通ないし。ソファで四ノ宮に寄りかかって座ったりって、普通は絶対しないし。一緒に寝るもないし。……ましてや、抱かれたりなんか絶対無いし。
なんかあの、媚薬で事故ってしまったあの日。
あの日から。考えてみたら、絶対おかしい距離感で、四ノ宮と来てしまったような……。
いや、もちろんおかしいとは思ってたんだけど……。
――――……あれで、好き、とか言われると……。
どんな意味だよ、て混乱してしまう。
「なんかお前って、寝不足だと色っぽいな」
斜め向かい側の冴島さんに突然でっかい声で言われて、は? と固まる。
「朝から変なこと言わないでください」
怒って見せてるのに、「はは。ごめんごめん」と軽い……。周りも何か笑ってるのでもうそのままにすることにした。
気付いたらここのテーブル、隆先輩と冴島さんが居て、四ノ宮が気にしてる二人に囲まれていた。まあオレの隣は小太郎だし、二人は向かい側斜め、だけど。……早く食べて出よ。
……って。
四ノ宮が気にするのも変な話だし。それをオレが気にするのもなんだかなって感じ。確かにこの人たち、ちょっかいはかけてくるような気はするけど。何の意味もないし、冴島さんなんて覚えてもないし、そんな心配するようなこともないのに。
……そこまで考えて、ふ、と視線を感じた方向を見ると。
四ノ宮と目が合う。
なんか、じー、と見られてる。
……何であんたは、そこに居んの。
と言ってるような気がする。いや、聞こえないけど。
……なんかそう言ってるような気が。
オレは眉を顰めて、四ノ宮から視線を外して、とにかくパクパク食べ進める。
「ごちそうさまでした」
「あれ、ユキ早い」
小太郎に言われる。
「コーヒーゆっくり飲みたいから。先行ってるね」
もう今日はブラック飲もう。
立ち上がって、食器を食堂の返却口へ置いて、食堂を出た。
受付に、虫刺されの薬を返してから、紙コップの自販機があるところに向かう。ソファがいくつも並んでて、大きなテレビに、今朝のニュースが流れている。
「――――……」
やっぱり苦いなー。
慣れないブラックをちびちび飲んでいると、食事を終えた皆がぱらぱらと、近くのソファに座っていく。
なんとなく皆ぼんやりテレビを見たり、まったりしてると、全員食べおわって一緒に出てきた皆が通りかかった。
先生が、オレ達のソファのところで立ち止まって、「じゃあ十五分後に昨日の教室で」と告げて、皆も了解。座ってた皆も立ち上がって歩いていくのをぼんやりと見送る。
だるいけど……十五分後か。
……部屋戻って、歯を磨いて準備して、だなー。
そう思った時。
歩いてく四ノ宮と目が合う。ふ、と笑まれる。
――――……。
あの笑い方は。
ほんと意味分からない。
と、思ったら、四ノ宮、皆と別れて、こっちに歩いてきて、オレの前に立った。もう皆、居なくなっちゃってて、急に二人きりの空間。
……どき、と胸が音を立てた。
え。何で。咄嗟に、胸の真ん中を握り締めて、押さえてしまう。
「朝からものすごく、複雑そうな顔をしてるから来た」
クス、と笑って、四ノ宮がオレの隣に腰掛ける。
「……好きだから、て言ったことでしょ?」
「――――……」
「言葉のまんまだから。奏斗のことが好き。後輩としてとか隣人としてとか、ゼミ仲間とか、そういうのでも好きだけど……オレは、奏斗が、一番大事だから。恋人、要らないっていってるのも分かってるけど……前も言ったけど、別に恋人にならなくても、いい」
「……」
「オレのことを一番、好きになってくれたらいいなと、思ってる。今じゃなくて、ずっと先でいいから」
「――――……」
「ほんとは、色々片がついてから言おうと思ってたんだけど……女の子とか、見合いとか、余計なのが多いから。先に言った方がいいかなと思って……混乱してたら、ごめんね」
少し苦笑いで言って。でも、すぐに、またまっすぐにオレを見つめる。
「でも、ずっと、好きだし、ずっとそばにいたい」
四ノ宮がそう言ったところで、ふ、と微笑む。
「これ、いくらでも話すからさ。……とりあえず合宿の間は、忘れていいよ。ごめんね、寝不足にさせちゃって」
「……っそれで寝不足な訳じゃないし」
そのせいだけどなんか悔しい。
オレの言葉に、四ノ宮は、ふ、とまた微笑む。
「ふーん、まあ、いいけど。行こ、時間ないし」
「言われなくても行くし」
オレはパッと立ち上がって、スタスタ速足で歩きだす。
四ノ宮は面白そうに笑いながら、半分駆け足で寄ってきて、隣に並んだ。
「……もう言っちゃったから。隠さないから」
ね、と笑われて。
何とも言えなくて、む、と口を閉じる。
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