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第397話「いつから」*奏斗
午前の講義が始まった。今日は昨日みたいに意見を出し合うんじゃなくて、グループワークで進めることになってる。
卒業生の二人が皆を適当に机で分けて、四つのグループを作ったのだけど、四ノ宮と一緒にさせられてしまった。何でこのタイミングで一緒なの、とオレは内心うんざりなのだけど、笠井は明らかに四ノ宮と一緒で喜んでいて、隣にすかさず座った。……いや、別に、良いんだけど。
実際に各グループが一つの会社を起業するためにやらなければいけないことのシミュレーションをしていく。昨日習ったことをもとに、一つの会社を起業するイメージで、計画を立てる。制度の申請や、店舗などの契約、準備にかかる予算や日数も出していく。
先輩達は、ここで学んだことも参考に、起業したっていう話だから、結構、本格的に考えなくてはいけない。
幸い、めちゃくちゃ真剣に話し合うので、余計な思考がまとめて入ってくるような隙はない。少し休憩は挟みながらも午前中いっぱいはその作業で終わった。各グループごとに進み具合によって、昼をとることになって、オレ達のグループは、とりあえず切りが良いところで食堂に行くことになった。
翠や小太郎も一緒なので、なんとなく三人で並んで歩き出した。少し先に、四ノ宮と笠井……と、他の人達が適当に並んで歩いてる。
翠がオレの隣で、クスクス笑い出した。
「ねね。里穂ってさ。分かりやすいよねぇ?」
前方にあの二人が並んでて、そのセリフだと、もうそれしかないだろうという感じのことを翠が言うと、「だな」と、小太郎も笑う。
「ゼミ中でも分かるしね。青春、て感じ」
クスクス笑って言う小太郎に、翠がちょっと小声になる。
「昨日女子部屋で色々話してたんだけどね。誰にもバレてないと思ってるみたいで、実は、って話し出すから、笑っちゃった」
クスクス笑う翠に、小太郎が、それ言ったの?と聞くと。
「バレてると思うよー皆に、って言っといた」
「何て言ってた?」
「焦ってたし、本人にバレてるかなっていうから、むしろばらしてるのかと思ったって言っちゃったんだけど。本気で、一年の子たち以外にはバレてないと思ってたみたい」
翠は可笑しそうに笑って、可愛いよね、と話す。
そうだね、と言って、まあ確かに可愛いよなと、そう思う。一生懸命好き、て感じ。
笠井が四ノ宮のことを大好きで、話したくてしょうがないっていうのは、すごく分かる。
笠井に見せてる四ノ宮は、素なのかな。どっちにしたって、四ノ宮のことを、すごく好きになる子なんて、たくさん居そう。ほんと、モテるだろうし。ていうか、よく考えたら、素の方がよっぽどモテるんじゃないか?
……つか、あいつの素ってどれだろ? ブラックぽいとこ? でもなんか、普段の四ノ宮より、めちゃくちゃ優しい感じがするのも、素なような……。
そこまで考えて、ぴた、と思考が停止する。
四ノ宮の言った、奏斗が好きって言葉で、なんか、頭ンなかが、いっぱいいっぱいになる。
なんだかもう……どうしたらいいんだろ。
グループワークが結構大変で余計なことを考える隙が無かったからまだ良かったけど。それでも、四ノ宮が意見を話したり、こっちに視線を向けたり、話しかけられたりするたびに、なんかオレ、自分でも分かる。超挙動不審。変に視線を逸らしたり。
……何でこんなに、意識しないといけないんだと思うくらい。
好きだからの単語が、圧倒的な力を持って、迫ってきてるような気がする。
オレは、恋なんかしないって言ってるし。
あいつも、それは分かってるって言ってるし。
……認めたくはないけど、和希のことだって、やっぱりオレ、全然吹っ切れてない。だって、和希に会いたくないから、昔の仲間にも会えない。仲いい皆、誰にも会わないなんて選択を、今も続けてる。
それも、四ノ宮は、知ってる。なんかほんとに全部、知られてるな……。
なんて言ってたっけ、四ノ宮。
ずっと先に、好きになってくれたら?
ずっと先に……好きに?
ずるいというか何というか。
今、好きになってって言われたら、断るしかないのに。
……そういうのも多分、全部分かってて、あのセリフ。
ずっと居るからって言うんだけど。
オレ、男なんだけど。その意味、本当に、分かってんのかな……。
オレがもし、女の子だったら。と思う。
多分あの別れ方はしてないし。トラウマもないし。
四ノ宮みたいに、優しく、ずっと居るなんて言われてたら、その気になっちゃってたかも、知れないけど。
……でもオレが 女の子だったら、四ノ宮とあんな複雑な遭遇はしてないし、だから四ノ宮がオレを何とかしなくちゃとかも思わなかっただろうから……その仮説も成り立たないのか。好きになられるきっかけも何もない。
オレが男だって、分かってないなんてことは思ってないけど。
一緒に居すぎちゃって、今、おかしくなっちゃてるのかもとは思う。
――――……ていったら。怒るだろうか。
……四ノ宮が、今、真剣に、言ってくれてるのは。
分かってる気がする。
好き。かぁ……。
何だろ、好きって。いつから?
いつから、オレのこと、好きで、一緒に居たの?
ここ最近のずっとの四ノ宮が頭ン中を駆け巡って、もう、どこからなんだろうって、パニック。あん時は違うよね、とか。あの時は……とか、もう、ほんと、どうしたらいいのか、良く分からない。
「なー、ユキは好きな奴、今ほんとに居ないの?」
「え」
翠と小太郎に、じっと見られて。口をつぐんで、首を縦に振った。
「まあオレも今は居ないんだけど。早く見つけようぜーいい子。好きな子いると毎日楽しいよな~」
言いながら、肩を組んでくる小太郎に、そうだね、と返した。
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