392 / 542

第398話「落ち着こ」*奏斗

 お昼を食べてる間、四ノ宮の見えないところに座ったら、少し落ち着いてきた。  そうだ、ちょっと落ち着こう。  ……そんなに急いで、考えなくてもいい筈。  もっと落ち着いて考えよう。  四ノ宮も。  ……落ち着いてもらおう。  ほんとにそんなこと言ってて、いいのかよって話。  ……思えば、距離が。どうかしてた。  近すぎて。  ほんとおかしな距離感で、ここしばらく、ずっと居てしまった。  オレが悪いのかも。なんだかんだあいつといるの、居心地が良くて。ごはん美味しいし。なんか不思議なくらい、よく眠れるし。そんなのにつられちゃってたかも。断ろうと思えば断れる程度で、四ノ宮は誘ってた気がするのに、断らずに結局ずっと一緒に過ごしてしまった。  少し離れてみよう。  距離を置いて落ち着いて。  うん。そうしよう。  四ノ宮も落ち着いて考えてもらって、あいつ、色々家のこととかもあるのに、男に好きなんて言ってて良いのっていう……いい訳ないじゃん。お父さん、見合いしてって言ってたよ、すごく。  何、オレ。  好きとか、もう本気でとって、こんなに、挙動不審になってるんだ。  落ち着け。  めちゃくちゃ唱えながら、昼食をとった。   ◇ ◇ ◇ ◇  唱えが完了。  よし、もう大丈夫、とばかりに昼食を終えて、教室に早めに戻った。時計を見て、皆もまだ戻ってないしと、立ち上がった。 「トイレ行ってくる」 「おー」  小太郎たちに言って教室を出て、端のトイレまで小走り。  よし、オレ、今、すごく普通。  大丈夫、いつも通りでいこう。  思いながら勢いよくドアを開けて、中に入った瞬間。 「うわ」  四ノ宮が向こう側にいて、びっくりした顔をしていた。  内心めちゃくちゃうろたえながら中に入ってしまい、ドアが閉まると急に二人きり。どうして四ノ宮とは、こう、変な縁ばかりあるんだろう、今ここにいなくたっていいじゃんかと、めぐりあわせを呪いたくなってくる。 「つか、オレもう一歩前にいたら、ドア、激突してたけど」  超近くに居る四ノ宮に笑われて。 「ごめ――――……」  言いかけたオレを見下ろして、四ノ宮がじっと視線を合わせてくる。 「奏斗、顔、赤い?」  頬に触れられて、びく、と引いた。 「赤くない」 「熱ある? 平気?」  心配そうに額に触れられて、ぶるぶると首を振って、その手から逃れた。 「走ってきたから」  言いながら、トイレの中に突き進み、個室にこもる。 「…………っ……」  だめだ、ナニコレ。 「何、ほんとにお腹でも痛いの?」  そんな風に聞かれる。 「何で?」 「走ってきたって言うから」 「……大丈夫」  少しの間が開いて、「オレ先戻ってた方がいい?」と聞かれる。 「……うん。戻ってて」  もうお腹壊してるとか、もう、なんて思われてもいいから、先戻ってて。  そう思って答えると、戻ってるね、と四ノ宮の声。それから、ドアが開いて、人気がなくなった。  ……はー。  用を済ませて、外にでる。ってもちろんお腹なんて壊してない……。  顔が熱くなったの、何で。  ――――……だから。  落ち着けよ。オレ……。何なんだよもう……。  ため息しか出ない。

ともだちにシェアしよう!