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第398話「落ち着こ」*奏斗
お昼を食べてる間、四ノ宮の見えないところに座ったら、少し落ち着いてきた。
そうだ、ちょっと落ち着こう。
……そんなに急いで、考えなくてもいい筈。
もっと落ち着いて考えよう。
四ノ宮も。
……落ち着いてもらおう。
ほんとにそんなこと言ってて、いいのかよって話。
……思えば、距離が。どうかしてた。
近すぎて。
ほんとおかしな距離感で、ここしばらく、ずっと居てしまった。
オレが悪いのかも。なんだかんだあいつといるの、居心地が良くて。ごはん美味しいし。なんか不思議なくらい、よく眠れるし。そんなのにつられちゃってたかも。断ろうと思えば断れる程度で、四ノ宮は誘ってた気がするのに、断らずに結局ずっと一緒に過ごしてしまった。
少し離れてみよう。
距離を置いて落ち着いて。
うん。そうしよう。
四ノ宮も落ち着いて考えてもらって、あいつ、色々家のこととかもあるのに、男に好きなんて言ってて良いのっていう……いい訳ないじゃん。お父さん、見合いしてって言ってたよ、すごく。
何、オレ。
好きとか、もう本気でとって、こんなに、挙動不審になってるんだ。
落ち着け。
めちゃくちゃ唱えながら、昼食をとった。
◇ ◇ ◇ ◇
唱えが完了。
よし、もう大丈夫、とばかりに昼食を終えて、教室に早めに戻った。時計を見て、皆もまだ戻ってないしと、立ち上がった。
「トイレ行ってくる」
「おー」
小太郎たちに言って教室を出て、端のトイレまで小走り。
よし、オレ、今、すごく普通。
大丈夫、いつも通りでいこう。
思いながら勢いよくドアを開けて、中に入った瞬間。
「うわ」
四ノ宮が向こう側にいて、びっくりした顔をしていた。
内心めちゃくちゃうろたえながら中に入ってしまい、ドアが閉まると急に二人きり。どうして四ノ宮とは、こう、変な縁ばかりあるんだろう、今ここにいなくたっていいじゃんかと、めぐりあわせを呪いたくなってくる。
「つか、オレもう一歩前にいたら、ドア、激突してたけど」
超近くに居る四ノ宮に笑われて。
「ごめ――――……」
言いかけたオレを見下ろして、四ノ宮がじっと視線を合わせてくる。
「奏斗、顔、赤い?」
頬に触れられて、びく、と引いた。
「赤くない」
「熱ある? 平気?」
心配そうに額に触れられて、ぶるぶると首を振って、その手から逃れた。
「走ってきたから」
言いながら、トイレの中に突き進み、個室にこもる。
「…………っ……」
だめだ、ナニコレ。
「何、ほんとにお腹でも痛いの?」
そんな風に聞かれる。
「何で?」
「走ってきたって言うから」
「……大丈夫」
少しの間が開いて、「オレ先戻ってた方がいい?」と聞かれる。
「……うん。戻ってて」
もうお腹壊してるとか、もう、なんて思われてもいいから、先戻ってて。
そう思って答えると、戻ってるね、と四ノ宮の声。それから、ドアが開いて、人気がなくなった。
……はー。
用を済ませて、外にでる。ってもちろんお腹なんて壊してない……。
顔が熱くなったの、何で。
――――……だから。
落ち着けよ。オレ……。何なんだよもう……。
ため息しか出ない。
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