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第399話「なんか変」*奏斗

 色々考えながら、トイレから出たところでちょうど、今度は椿先生と遭遇。 「あ、先生」 「ん?」 「あの……やっぱり帰り、乗せてもらっても、いいですか?」 「ん。分かった、いいよ」 「すみません」 「学校の駅の近くなんだよね? 近くまで送るから」  快く了解をもらえて少しほっとする。お礼を言ってから先生と別れて歩き始めた。  今オレが全然落ち着けないことも含めて。  もう少し、考えてから、四ノ宮と話したい。  今のこの感じだと、へんな風にどうにかなって。なんかもう訳が分からなくなりそう。  別に四ノ宮と一緒に居たくない訳じゃないけど。  オレ、今ほんと。なんか変。寝不足なののもいけないかも。  ちゃんと寝て、ちゃんと考えよ。  今日帰ったら、四ノ宮の家に行くのはやめよ。  あ。そうだ。真斗のバスケの試合結果は、夕方かなあ……。勝てるといいな。そう思いながら、スマホで真斗に、頑張れ、と送った。  教室に入って、四ノ宮が一年の皆と話してる姿を見つける。ちら、とオレを見て、大丈夫かな、みたいな顔をした。  オレは、四ノ宮の席に近づく。  ……これ、別に変な話じゃないよね。どうせあとで知られるんだし、今、言おう。普通に。 「四ノ宮、あのさ」 「はい? ていうか、平気ですか?」  見上げられると、ドキ、とする。  あ、やっぱだめだ。 「ん、平気。あのさ、オレ、椿先生の車に乗せてもらうことにした」 「……分かりました」  一瞬、固まったけど、すぐに頷いてくれる。……そんな気がしてた。 「もう決まりですか?」 「ん」  頷くと、四ノ宮は苦笑しながら、頷いた。   「え? 先輩、大翔くんの車に乗らないんですか?」  笠井に聞かれて、うん、と頷くと。 「え、じゃあ、乗せてってもらいたいなー」 「え、じゃあオレも」 「あたしもー」  一年皆、すっかりその気で。  四ノ宮は、ふー、と息をついて、イイよ、皆こっちで、と言った。笠井が嬉しそうなのも分かる。これは想定内。一年が皆でワイワイ始めたら、小太郎も聞きつけて、何々?と寄ってきた。 「相談があって、先生の車で帰ることにしたんだ。一年は、四ノ宮の車に乗ることになったみたい」 「ああ、そーなんだ。じゃあオレ達の車も少しメンバー変えようかな。きつきつで乗ってたから」  そう言うので、オレが、そうだね、と頷いた後、ふと。 「何、先生に相談って? 何か困ったことあんの?」  小声で聞いてくる小太郎に、「そんな大したことじゃないんだけど」と笑顔で返す。小太郎ってほんと、心配性というか。優しいというか。 「先輩、ちょっと」  四ノ宮に笑顔で呼ばれる。ちょっと外、と言いながら、四ノ宮が立ち上がった。仕方なく、四ノ宮の後をついて、教室の外に出る。  とりあえず、誰もいないのを確認してから、少しドアから離れたところで四ノ宮がオレを見下ろした。 「ほんとにいいの?」 「いいのって?」 「オレの車、里穂たち乗るけど、大丈夫?」 「……何、大丈夫って」 「へんな誤解、しないでね?」  こそ、と囁かれる。 「しないってば」 「オレ、その気ないからね」 「あっても関係ないし」 「――――……そういうこと、すぐ言うし」  むっとした四ノ宮に不意に頬を掴まれて、ぶに、と伸ばされる。 「ほんといいの? ――オレが里穂と付き合っても関係ない?」  めちゃくちゃ小さな声で、そんな風に言われる。 「それ、嫌かどうか考えといて、帰ったら聞かせてよ」 「……っ別に嫌じゃないし、何なら付き合えばいいじゃんか」 「あーもームカつくなー。ほんと素直じゃないんだから」  ぶにーーーと伸ばされて、マジやめてと引き離したところに、後ろから椿先生が笑いながら近づいてきた。 「子供みたいなじゃれ方してるね」  うわわ。なんつーとこ見られてるんだ。  そうださっきトイレ行ってたんだから、注意すべきだった……。  ちーん、とへこんでると、四ノ宮が、「ちょっとムカついたので、ふざけただけです」と、笑ってる。 「終わったら、入ってきて。もうすぐ始めるから」  クスクス笑いながら先生が教室に入って行ってしまった。 「もー、何してンの、絶対変に思われたし……」 「つか、あんたが素直じゃないからでしょ」 「素直だし!」 「もう帰りは、満足するまで話してきてください。何か話したいことがあるんでしょ? ……でも、帰ったら、オレと話してね」 「……寝不足だから、元気だったらね」  ……今日は、元気の予定じゃないけど。  それを言うと、また長くなりそうだから、言葉には出さず、心の中でそう言った。  オレ達が教室に入ると、椿先生が「はーい、皆、始めるよー」と声を上げた。  その声に、皆が午前中の席に座りなおした。

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