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第401話「椿先生と」2*奏斗

 高速に乗って、半分くらい来たところで、先生が「パーキングに寄っていい?」と言った。 「もちろん、いいですよ」 「お土産を見たくてね。あと、ついでに少し何か食べようか。家に着くのは十九時過ぎそうだし」 「そうですね」  少し先のパーキングに入って、バッグで駐車をしてる椿先生に気づく。  ほんと、先生、イケメンだなあ。運転姿、本当に様になるというのか。  ほんと、モテそう。  そんなことを思いながら、ふ、と四ノ宮を思い起こす。  ……助手席。多分、笠井だろうけど。楽しそうに乗ってるんだろうな。  大好きだもんな、四ノ宮のこと。  そんな風に思いながら、なんとなく息をついて、車を降りた。   「ユキくんと二人で歩いてると、兄弟に見えるのかな? 親子かな?」 「え、親子はないですよ」  意外過ぎて、あは、と笑う。先生、すごく若く見えるし。 「兄弟がちょうどいいかもですね」  そう言うと、先生も、そうだね、と笑う。  そういえば行きのパーキングでは、皆に会ったっけ。  ここには居ないかな……。周囲を見たけど、知ってる顔は無さそうだった。 「おみやげ、ユキくんも見る?」 「あ、はい。見たいです」  一応実家には買ったんだけど、見ていると、美味しそうなアップルパイがでかでかと売り場展開されていた。真斗に買っていこ。と、アップルパイで思い出すのは、リクさんもだ。何の話でそうなったのかは覚えてないけど、大好きって言ってたのを覚えてる。なんだかんだ一年位ずっとクラブでお世話になってて、特に最近はまた余計なお世話もかけてたし。ただの店員さんという枠は飛び越えちゃってた感じだし……買っていこうかな。お酒は渡したけど、あれはあの日のお詫びだし。  オレ多分、しばらくあの店に行かないと思うから。ついでにこれ渡して挨拶してこよ。 「――――……」  少し前までは、あの店に行って、誰か見つけて発散するのが、普通だったのに。……なんであんなに、気持ち悪くなっちゃったんだろう。  やっぱり、トイレで迫られたり、変な薬飲まされて襲われそうになったり、怖いなって思ったからかなあ。今となっては、触れられなくても、そういう視線で見られるのもちょっと嫌かも。……勝手だなぁ、オレ。  そんなことを思いながら、ぶらぶら歩いてると、いくつか品物を持った先生に会った。 「ユキくんも買う?」 「あ、はい」 「美味しそうだね、アップルパイ?」 「はい」  あ、先生も好きそう、と思って、じゃあ運転のお礼にしようと思って、もういっこ取りに戻った時。通りかかったところに、すごく美味しそうな生ハムが売ってるのを見かけた。  ……なんかこれ、すごい美味しそう。  四ノ宮の作ってくれるサンドイッチに、これ、入れてほしいかも。  じー、と見つめながらそんなことを思ってる自分に、はっと気が付いた。  何、さっきからずっと、思い出してるんだろ。と、ちょっと自分で焦りながらも。  ……いいや。とりあえず、これは、買っていこう。食べたいし。  アップルパイのついでに、生ハムとチーズも買って、保冷材も貰って押し込んで、先生のもとに戻った。  今川焼をつまんだり、焼き立てパンを食べたりして、小腹を満たしてからまた車に乗り込んだ。 「色々美味しかったね」 「そうですね」 「そういえば、ユキくん、一人暮らしでご飯はどうしてるの?」 「えーと……」  最近はずっと四ノ宮と一緒だったけど……。 「食べに行ったり、自分でも作ったり……ですね」  ちょっと前までずっとそうしてた。 「偉いね、ちゃんと作ってるんだね」  そんな風に言いながら、先生が車を発進させた。  その時、ポケットのスマホが震えて、メッセージを見ると。  真斗が、準優勝したっていうメッセージ。全国には届かなかったみたいだけど、優秀選手で表彰されたらしくて、トロフィーを持ってる写真が送られてきていた。 「わ」  思わず声が出て、ん?と聞いてくる先生に、そのことを説明した。  すごいね、おめでとう、と言ってもらって、はい、と、笑顔で返しながら。  ――――また四ノ宮が、浮かんでしまう。  一緒に帰ってたら、今、すぐ言えたのにな。  きっとめちゃくちゃ喜んでくれてた――――……と、ちょっと待て。  帰ったら。いや、明日言えば、いいじゃん。そうだそうだ。  そう思いなおして、真斗に返信してから、スマホをしまった。

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