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第404話「リクさんと」2*奏斗

 サンドイッチを食べながら、自分のセリフに、ふと気付く。  あ、なんかオレ、和希との話。また普通にリクさんにできた気がする。さっきも椿先生にも話せた。  少し克服、できてきたんだろうか……。 「四ノ宮くんは、ここに来ること知ってる?」  オレは、首を横に振って、リクさんを見上げた。 「挨拶に来ただけなので、別に言う必要もないし……そもそも、別に四ノ宮に断ることでも、ないですし」 「そう? 断ることだと思うけどね。四ノ宮くんは、そう思ってそう」  クスクス笑って、リクさんがオレを見つめる。オレは、ちょっと首を傾げる。 「確かに、あの後ちょっと距離感がおかしくはなっちゃってたんですけど……」 「うん」 「……四ノ宮はノンケだし。別にオレ達、付き合ってるとかじゃないですし」 「んー? ノンケがとうかとかは、彼は関係ないんじゃないのかな。四ノ宮くんの場合は、ユキくんだけに興味あるって感じがするけど……もういつでも心配してそうだし」  そう言いながら、リクさんは可笑しそうに笑う。 「まあ。ここで話した限りしか知らないから分かんないけどさ。ユキくんのこと、大好きそうだよね?」 「――――……好き、は好きなのかも、とは思うんですけど……」 「けど?」 「……ずっと居たいとか言うけど、無理に決まってるのに」  リクさんは、四ノ宮とも、オレの周りの他の人とも関係なくて、ここにいるオレをよく知ってる人。この店の中では、一番安心できる人で、もちろんここでだけの関係ではあるんだけど、すごく信頼してる。  だからつい、出てしまったのかも。  あ、ずっと居たいとか言う、って言っちゃった、と思って、口をつぐんだ時には、もうクスクス笑われてて。 「ずっと居たいって言われたの? 好きって?」 「…………」  今更ごまかせなくて、少しだけ頷くと。 「なんか、四ノ宮くん、いいね。分かりやすくて好きだな」  クスクス笑うリクさんに、確かに面白いというか変な奴だけど。分かりやすくはないと思う。あれを分かりやすいって、リクさん、すごい……。と考えていると。 「でも、ユキくんがノンケは怖いのは分かる気はする。過去のことがあったりしたら余計かもね」  うーん、とリクさんは顎に手を置いて、考える素振り。  それから、クスッと笑った。 「まあでも、誰のこともさ、信じきるのは怖いことだよね。それは、男同士とか関係なくて、男女だって一緒だよ」 「――――……」 「男だから恋できないっていうのも、違うよね」 「……そう、ですね」 「皆、信じるのはこわいけど、好きな人と居たいから頑張って、踏み出すんじゃない? でもその結果、一緒に居れなくなる時も、そりゃ色々な理由であると思うけど……」 「……」 「でもそれは、男同士に限ったことじゃないよね?」  ……そっか。  男だから駄目だったとか、思い込んでたけど……。  怖いのは、皆一緒、か。  頑張って、一緒に居る……。そっか。 「……なんか、オレ」 「ん?」 「目からうろこがポロポロしてる感じで」 「何それ」  クスクス笑われて、苦笑い。  挨拶に来たのに、結局色々相談しちゃって、お礼を言ったら、リクさんに、今度は四ノ宮くんと普通に遊びにおいで、と言われてしまった。  リクさんと別れて店を出て、ふー、と息をついた。  ここから誰かと一緒に店を出て。  ホテルに向かってたのは、そんなに遠くない過去なのに。  なんか、あの時の自分とは、全然違う感じ。  歩き出しながら、何があの頃と違うんだろうと考えてしまう。  和希に、あれを言われて振られた事実は変わらないし。  大好きでも、オレとは居られないっていう結論を突きつけられて、オレの全部否定された気がして。父さんにも、全否定されて。  あれから二年経つけど、何も変わらないまま、ついこないだまでは、二年前のまま、ずっと生きてきてたのに。  ――――……四ノ宮と、絡んだから、かなあ……。  なんか、あれから変わったことは、それしかないような気がしてくる。

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