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第408話「ほっと」*奏斗
まだ帰ってないのか。もしかして、帰ってきてる?
テーブルのスマホを持ってきて、聞いてみようかと思ったけど。
既読はついてたけど、まだ運転中なのかもだし。
帰ってきてるなら寝てるかもだし……。聞いても意味、ないかな。
ぼー、としていたら。
不意に、隣の部屋から物音。すぐ隣で、窓が開く音がして、胸がドキッと震えて、そのままドキドキ。なぜか身をひそめてしまう。
……今帰ってきて、窓、開けたのかな。
お互いべランダなら話しかければ聞こえるのに、思わず、静かにしてしまうオレ。……何でだ、と思うのだけど、なぜか動けない。
四ノ宮の、小さく咳払いする声がして、ほぼ同時にオレの部屋の奥、テーブルの上でスマホが小さく震え出した。
あ。今、オレに、電話かけてるのかな。なぜかドキドキしたまま動けないでいると、電話が切れた。
四ノ宮が、ふーと息をついた後、今度は着信音が聞こえだした。これは、四ノ宮のスマホが鳴ってるみたい。「もしもし、佑?」と四ノ宮の声がしたので、電話の相手も分かってしまった。
聞いてるのもどうかなと思うんだけど、サンダルを脱ぐ音が聞こえそうで、なんだか今更、動けない。どうしよう。四ノ宮、家の中に入ってくれないかな。そう思ってると。
「ん、今ついた。里穂んち行く道路が渋滞しててさ」
そのまま少し時間が空いて。
「ああ……付き合ってほしいって言われたけど、断った。……まあそれもあって、余計に時間かかったんだけど」
と、四ノ宮の声。
うわ、なんか、気まずい。
どうしよう、今さら、声を出すのもあれだし、動くのも……。
――――……でもなんか。
もしかして、四ノ宮と笠井が、そういうことになったりするのかなと思った気持ちは消えて……なんかほっとしてる、自分が居る気がして、首を傾げる。
「大丈夫。……でもその気がなかったから、断れてよかったかも。ん。そうだな、そんな感じ。これからも仲良くしてねって最後は言ってたから、大丈夫だと思う。……ん。ああ、じゃあ、また明日な」
言って、電話を切った後。
またすぐ、オレのスマホが震え出した。内心すごく慌てる。
もう、今、声、出さないと無理かも。そう思って。
「あの、四ノ宮……」
「え?」
オレがすぐ真横で出した声に、四ノ宮がびっくりしてるのが分かる。
「奏斗?」
「ん」
「ベランダに居る?」
「あの……窓んとこ、座ってた。ごめん、声出す前に、電話聞こえちゃった」
「あー別にいいけど……奏斗、こっち、来れる?」
「…………」
「すぐシャワー浴びてくるから、今、こっち来といてほしいけど……もう寝たい?」
「ちょっと寝たんだけど、目が覚めちゃって」
「なら、話そ。こっち来て」
「……ぅん」
何だか、つい。頷いてしまった。
……だってなんか。眠れそうに、無くて。
◇ ◇ ◇ ◇
スマホと鍵だけ持って、自分の部屋を出て、隣に行くと、四ノ宮がちょうど鍵を開けて出てきた。
「奏斗」
ふ、と笑うその顔を見て、なんか、ふわ、と感じる気持ち。
……なんか、ずっと、離れてた気がする。とか。いや、意味分からん。そんなに離れていない。十六時半近くに別れて、七時間も経ってないくらい。
「……おかえり」
とっさに何も浮かばなくてそう言うと、「ん? あ、ただいま」と、四ノ宮も言って、クスクス笑いながら招きいれてくれた。
「お邪魔します」
「ん、どーぞ。オレ、シャワー浴びてきちゃうから。待ってて」
「うん」
「あ、何か飲む?」
「さっき水飲んだ」
「ん。すぐ出てくる」
「うん」
頷くと、四ノ宮はそのままバスルームに消えていった。
オレは、リビングに入って、テーブルにスマホを置いて、それからソファで二号に触れた。
「……お前が居たら、そのまま寝れてたかなあ」
つい、二号を抱き締めながら、聞いてしまう。
……なんかさっき。手で何かを探して、居ないから起きてしまった。
なんだかんだ、毎日。……ベッドの中で側に、あるものが、無かったから。
「――――……」
なんだか、なあ……。
二号のしっとりした柔らかさにホッとして、顎をのせて潰してしまう。
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