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第409話「変な感覚」*奏斗
十五分弱くらいで、四ノ宮が帰ってきた。髪もざっと乾かしてきたみたい。いつもだけど少しだけ幼くなる。
二号と一緒にソファに居るオレを見て、ふ、と笑いながら、水を飲みに行く。そのままコップを持って、オレのところにやってきた。
「寝る前に少し飲んで」
言われて、少しだけ水を飲んで、四ノ宮にコップを返すと、それを飲み干してコップを片付けに行った。戻ってくると、オレの隣に座った。
「……二号、そんなに好き?」
クスクス笑いながら、オレの抱いてる二号のお腹辺りをツンツンしてくる。
「つつくなよ」
むぎゅ、と抱き締めなおすと、四ノ宮はおかしそうに、苦笑い。
「遅くてごめんね。眠くない?」
「今は平気……」
「奏斗は何時くらいにマンションついたの?」
「十九時過ぎくらい」
「道、行きよりだいぶ混んでたよね」
「うん。混んでた」
頷くと、「さっきの電話全部聞こえてた?」と四ノ宮。
「ごめん。聞こえてた」
「別に、謝んなくていいけど。……里穂んち行く道路がめちゃくちゃ混んで、遅くなっちゃってさ」
「うん」
「家の前についてから告白されて、それで話してたら、余計遅くなった。ごめんね?」
別にオレに謝ることじゃないし、と思いながら、ううん、と首を振る。
「好きな人居るからって断ったら、どんな人? とか、色々聞かれて」
「――――……」
好きな人。って。
……そこでちょっと固まっていると。
「……好きな人って、奏斗のことだけど。ちゃんと分かって聞いてる?」
ちょっと嫌そうな顔で四ノ宮が言う。
……そうなのかな、でも違うかな、とか思っていたオレは、心の中読まれた気分で、四ノ宮をじっと見つめてしまうと。
「分かってなかったな……」
と、苦笑いされる。
「オレが、好きだって言ってるの、ちゃんと聞いてた?」
「……聞いたけど……」
「けどじゃないし」
苦笑いの四ノ宮は、もうずっと言ってくしかないなーと、ぶつぶつ言ってる。
「まあこっちは今はいいや。……奏斗は、先生と話したいこと話せた?」
そう聞かれて、四ノ宮の顔を見る。
「うん。色々話した」
「そか」
特に何を話したかとかは聞かず、良かったね、と笑う。
「夕飯は? 先生と食べなかったの?」
「うん。途中のパーキングで色々つまんでたから、そのまま先生とは別れた」
そう言うと、四ノ宮は少し沈黙。
「先生とは、てどういう意味?」
「え?」
「先生とは別れて? その後は?」
「――――……」
……オレのバカ。
言わなくていいやと思ってたのに。
……ていうか、そこひっかかる? 鋭すぎないだろうか。
「……ちょっとだけ、人に会いに行ってきた」
「ふうん……」
「おみやげ、渡しただけ」
「……ちなみに誰? なんか気まずそうなのは気のせい?」
「別に、気まずいとかじゃ……」
むむむ、と二号に顎を沈めていると、四ノ宮は、ふ、と笑った。
「まあいいけど」
そう言ったまま、少しの間、沈黙。
……言わないのも、変か。なんかそう思って、話すことにした。
「……アップルパイ、好きな人が居て」
「アップルパイ?」
「うん。真斗が好きでさ」
そう言った瞬間、あ、バスケ、と思ったら、四ノ宮が急にアッという顔でオレを見た。
「そうだ、真斗、試合は?」
忘れてた! と焦ったような顔で聞かれて、ちょっとびっくり。
なんかそんな風に、気にしてくれるんだなと思ったら、なんだかほっこりしてしまう。二号をソファに置いて立ち上がり、テーブルにあったスマホを手に取ると、真斗からのメッセージを四ノ宮に見せた。読んでいく四ノ宮の顔が、笑顔になってくのを、なんとなく眺める。
「そっか、準優勝かー、惜しかったね、僅差じゃん」
「うん」
「でもすげーな、表彰されてる」
嬉しそうに笑う顔を見てたら、何だかオレも嬉しくなって。
「うん。すごいよね、真斗」
ふふ、と笑ってしまうと。四ノ宮がオレを見て、また笑う。
「嬉しそう」
伸びてきた手に、頬をぷに、と潰される。
「良かったね」
そんな風に言って、瞳を細められると。
なんだか――――……そわそわ、してしまう。変な感覚。
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