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第410話「いつから」*奏斗
「あ」
そうだ。四ノ宮にもおみやげ買ったんだ。
「ちょっと待ってて、忘れ物した」
「忘れ物?」
「うん。ちょっと取ってくる」
自分ちの鍵を持って玄関に向かって歩いていくと、後ろを四ノ宮がついてくる。
「明日でも良くない?」
「そうなんだけど……すぐ取って来るから」
「じゃあここで待ってる」
四ノ宮の部屋を出て自分ちの鍵を開ける。冷蔵庫から、生ハムとチーズを持って、また部屋を出た。四ノ宮の部屋のドアを開くと、さっきのまま四ノ宮が待っていた。
「早いね。何忘れたの?」
クスクス笑って、四ノ宮がオレの持ってるものを見る。
「何、それ?」
「ん、あの……乗せてってくれたお礼、と……」
「ん?」
オレから受け取って、何かを見ると、四ノ宮がクスクス笑った。
鍵をかけて、靴を脱いで四ノ宮の隣に立つと、「お礼と、何?」と先を促される。
「えーと、お礼と……朝、それ、食べたいなって」
「それって、食べたいって方が先じゃない?」
ふ、と四ノ宮が笑う。
「そういえば……」
食べたいなっていうのが先だったようなと思いながら、そう言ったら、四ノ宮が可笑しそうに笑いながらオレを見る。片手でそれを持ったまま、もう片手で、オレの腕を掴むとオレの背中を廊下の壁に、軽く押し付けた。
「え?」
すぐに腕は離されたけど、その手がオレの顎を掴んで上向かせて、そのまま、キス。触れてすぐ、舌が入ってきて、オレの舌に、触れる。
「……っ」
とっさに退こうと思うのに、顎を押さえられてて、全然動けず。
「……ん、……」
しばらく、キス、されて。ぞく、として声が漏れる。ゆっくり、四ノ宮はキスを離した。
「……オレに作ってほしいって、思ったの?」
「――――……」
「なんかすげー可愛いんだけど」
片手でおみやげを持ったまま、あいてる片手で、オレの頬に触れて、まっすぐ見つめてくる。ふわ、と緩んだ瞳に。どき、と心臓が動いた。……気がする。……あれ?
なんか。……合宿に行く前と違う。
今までも優しいは優しかったけど。……なんか今は。
……めちゃくちゃ、好きそうに、オレを見つめてくる、気がする。
オレの、受け取り方も、違うのか。良く分かんないけど。
そういえば、今までもたまに、どきっとしたことがあったような。どんな時だっけ……。もう忘れちゃったけど。
何だかすごく、四ノ宮の態度と、自分の感情に戸惑いまくっていると、そんなことは知らない四ノ宮は、楽しそうに笑った。
「ありがとね。すっごい美味しいの作るから、期待してて?」
「あ……うん」
辛うじて頷くと、クスクス笑う四ノ宮に手首を掴まれて、そのままリビングに連れていかれる。四ノ宮はおみやげを冷蔵庫に入れると、オレを引いて、またソファに座った。
それから、二号を持って、ぽん、とオレの膝の上に置く。
「何かこれ、ここが定位置になってるよね」
「……ん。可愛いし。気持ちいいし」
むぎゅ、と抱き締めると、四ノ宮はまた、ふんわり、笑う。
その笑い方も。
……いつからするようになったんだっけ。
嘘っぽくもなくて。
最初の頃の皮肉っぽい笑いでもなくて。
なんか。ふわふわ、笑う感じ。
……いつからだったかは、思いだせない。
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