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第411話「不思議」*奏斗

「それで? アップルパイを好きな人って?」 「――――……」  ……なんの話だっけ。と一瞬、ぼーと考える。 「あ、うん。……そう、真斗が好きだから買おうと思ったら、もう一人好きな人を思い出して」 「誰?」 「……リクさん、なんだけど」  ちょっと真顔で、四ノ宮がオレを見る。 「クラブの?」 「うん」 「ん? もしかして、今日クラブ行ったの?」 「――――……」  なんか四ノ宮には隠せる気がしないのでもう正直に言おうとは思ったのだけど、真顔になられるとなんか、困る……。 「しばらく、来ないと思うって言ってきただけ。今までのお礼も言って」 「――――……」 「そこで、リクさんにサンドイッチ作ってもらって、軽く夕飯は食べた」 「んー……」  全部言うと、四ノ宮はちょっと眉を寄せたまま。  ……はー、と息をついた。 「変な奴居るかもだから、一人で行かないでほしかったんだけど……」 「ん」 「……しばらく行かないって挨拶してきたの?」 「うん」 「……それだと、怒れないじゃん」  むー、という顔で、じろ、と見られるけど。 「まあ無事に帰ってきてるから、もう今回はいいけど。次行くなら、オレも行くからね」 「……リクさんに、今度は四ノ宮と遊びにきなって言われた」 「リクさんの方が分かってるじゃん」  クスクス笑って、四ノ宮がオレを見る。 「そーだよ、オレと行こうね」  四ノ宮はそんな風に言うけど。でもほんとは別に、どこに一人で行こうが、オレの勝手なんだけど、と思うのだけど。まあそこに関しては、散々迷惑かけたので、何も言えないオレは、二号を抱っこし直して、ぎゅむ、と潰した。 「奏斗、さ」 「……?」 「オレが好きだって言ったの、困ってる?」 「――――……」  その質問には、ふ、と四ノ宮を見つめなおしてしまう。  困ってる……? 「オレね、ほんとは……奏斗の色んな気持ちが、片付くまでは、言わないでおこうって思ってたんだ。混乱して、考えなきゃいけないこと、うやむやになっても困るし、ほんとは全部片がついてからって」 「……」  そう、なんだ。そう思うながら、小さく、頷く。 「でも、どうしてオレが奏斗と居たいか、ちゃんと言ってから居ないと……よく奏斗、意味わかんないって、言うからさ。……そんな意味の分かんない状態じゃダメだろうなと思って。そう思ったら、もう、言っちゃってて」 「――――……」 「オレが奏斗の側に居たいのは、そういう意味だから。そういう意味で、ずっと居たいと思ってる。でも、奏斗が、まだ色々思うことがあるのは分かってるし、あいつとのことも、これからどうするのかは奏斗が決めることだけど……オレはいつでも居るから。……すぐに好きになってとなんて言わない。答えも、考えなくていいよ」 「……」 「色々奏斗が落ち着いて、いつか自然と答えが出たら、聞かせて」 「――――……」 「そん時までにオレは、奏斗に好きになってもらえるように、頑張るから」  なんだかもう。不思議な生き物が目の前にいる感覚。  ……四ノ宮って、こういうのが、素なのか。  ていうか、全然ひねくれてなくない?   ……自分が嫌でも本心かくして、王子演じられてきたのって、周りよりも、相当精神状態が大人だからなんじゃないだろうか。  四ノ宮は、それを、全部隠して生きてきたとか言っちゃってるけど。  少なくとも、四ノ宮の周りにいた人は、四ノ宮を良い奴だと思って、ほんとに王子みたいって思って。普通の人は、人に良く思われたいって思ったって、そんなになかなかうまくは出来ないと思うし。  ……多分。  まっすぐで。……優しいんだろうな。  見た目で期待されて、イメージと違うって言われるのに傷つくから、そうされないようにしたのも、ほんとは繊細だから、なんだろうし。本人、そんなの絶対認めそうにないけど。  まっすぐにオレを見つめる、瞳。  なんか。  ――――……オレは、四ノ宮といると。  どうしてこんなに、安心、するんだろう。  見つめられてると。  ……嫌なこととか思い出しても……なんか、どうにかなるような気がして。  すごく、不思議。 

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