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第412話「信じるとか」*奏斗

「……四ノ宮、聞いていい?」 「うん?」 「何で、そんなこと、オレに言うの?」 「何で? って?」  不思議そうな顔をされる。 「……何で、オレを好きなんて、思うのか分かんなくて」 「――――……何でって」  四ノ宮はちょっと眉を寄せて、自分の顎に触れてちょっと考えてから。 「……何でって、必要?」  オレを見て、苦笑いの四ノ宮。 「……何で、とか、色々考えたけど、分かんなかった」  苦笑いの四ノ宮は、オレの頬に触れて。  そのまま、ゆっくり近づいて、唇を、合わせてきた。 「――――見てるとキスしたいなーって思う、とか……?」  その言葉の意味を考えてしまう。言った四ノ宮も、でも別にこれ限定じゃないし、と呟く。  ……よく考えたら、こんな風に自然とキスされてるのも、十分、おかしすぎるのだけど。 「何で? っていうのがすごくて」 「何でって……また、何でオレなんか、とかそういうこと?」  うう。バレている。 「……うん。そう。だってなんか、オレ、四ノ宮には、変なとこしか見られてないような気がして」 「あーまあ……そう言われると」  はは、と悪戯っぽく笑う四ノ宮。  そうだよね、と頷いてるオレの頬に、その手をかける。 「もうなんか色々全部見てるけど……オレ、奏斗が可愛くてたまんないから」 「――――……」  真正面からそんな風に言われて、かぁっと熱くなる。  な。……なんなんだ。もう。 「バカだなってとことか。分かってないなとか、なんか色々思うとこあるけど……側にいて、普通に笑う奏斗の側にいたい」 「――――……」 「奏斗が笑うと、オレ、嬉しいんだよね」 「――――」 「ほんとはしばらく言うつもり、無かったんだけど……奏斗が鈍すぎて、変な方に考えるから。これは伝えておこうと思っただけだから、答えは要らない。まずはオレを、人として信じてくれたらいいかなあ……」  人として信じる……? 「オレ、鈍くないし……」 「鈍いでしょ。好きって言ったって、どうして? とか聞かれちゃうわけじゃん」  四ノ宮は、クスクス笑って、オレを見つめる。 「――――……合宿で少し離れて、奏斗を見てたらさ。なんか、ほんと普通だったんだよね」 「……どういう意味?」 「なんかオレ、ここしばらくは奏斗が弱ってるとこをよく見てたせいか、居てあげたい、とか思ってたんだけど……皆の前に居る奏斗は、泣いたりしそうに見えないし、楽しそうに笑ってて、誰とでも話して、人気あって。別にオレが居なくても、平気そうだなーて見てた」 「――――別に……普通に話してただけだし」 「うん。だから……普通にそれは出来るというか、人よりも得意と言うか。そういう人なんだよね」  何が言いたいんだろう、と思いながら四ノ宮を見つめていると。 「まあ色んな偶然とかタイミングとかで、オレに弱いとこ見せてくれるようになっただけ、かもしんないけど……オレしか知らないの、なんか嬉しいし」 「……嬉しいの? 普通なら、面倒だと思うんだけど」 「だから、それが嬉しいってことは、オレは、奏斗が好きだからってことなんじゃないの。嫌いな奴がオレのとこで泣いてても、今みたいな気持ちにはならないと思うし」 「……四ノ宮って……ほんと、世話焼きタイプだよね」 「――――……」  オレのセリフに少し黙った四ノ宮は、オレの腕を引いて、オレを至近距離から見つめた。 「世話焼きたいとは思うけど、それがメインじゃないから。なんか合宿で見てたら、居てあげたい、とかじゃなくて……普通に笑ってる奏斗の側に居たいって、思ったし」 「――――……」  急に間近で見つめられて、また唇が重なってきて。  慣れてしまってるキスに、ぎゅ、と目を閉じたら。 「……オレ、こういうこと、するからね?」 「……え?」 「返事はずっと待つけど。……こういうのも、もう全部好きになってもらうつもりだから」 「――――……」 「どうしても嫌なら我慢するけど。……でもオレとするのが一番いいって思わせたいし」  そんなことを言いながら、オレの頬に、すり、と触れる。  ――――この宇宙人の特技は、オレから、言葉を奪うこと、な気がする。  ていうか。さっき言ってた、人として信じる、とか。そこはもう、すごく信じてしまっている気がする。  ただ、好き、とかは。何でオレ? とは思うけど。 「今日はもう、寝よっか。明日学校だし。疲れてるでしょ」  オレの手からするりと奪った二号をソファに置いて、四ノ宮はオレの手を引いた。そのまま、寝室へ。電気もつけず、暗いまま手を引かれて、もうなすがまま、抱き締められて、ベッドの上に転がった。 「――――……考えなくていいよ。急がないから」  柔らかい声が、すぐ近くで聞こえる。  背中に触れた手が、ぽんぽん、と優しく叩く。 「……おやすみ、奏斗」  囁かれる四ノ宮の言葉は、何だか呪文みたいで。  少しすると、ふわ、と欠伸が出る。クスクス笑う四ノ宮の手が、頭に触れる。  目が開けてられなくなって、瞼が落ちる。  寝られない、と思ってたのに。  あっと言う間に、眠ってしまった。

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