407 / 542
第413話「全部」*奏斗
ゼミ合宿から帰ってきた翌日。
月曜日。一限を終えて、二限の教室に移動。小太郎に会った。
「おはよ、ユキ」
「うん。おはよ」
小太郎の隣に座ると、周りにも適当に友達たちが座る。
「合宿が土日だと、結構月曜きついよなー何時に帰った?」
「十九時くらいには、マンションの前で椿先生と別れたよ」
「夕飯食べなかったの?」
「うん。途中のパーキングでつまんでたし」
「そっか、じゃあ早く休めたんだね。オレらも早く帰ればよかった」
苦笑いの小太郎に。
「遅かったの?」
と聞きながら、オレも別に早く休んだわけじゃないなと思う。
クラブに行ったり、四ノ宮と話したり。寝たのは結局遅かった気がする。
「ご飯食べに行って、なんだかんだ話してたら、帰ったら二十三時過ぎてた」
「あーそっか」
頷いてると、周りで聞いてた皆に、合宿だったんだ~と言われて、どこで?とかいろいろ聞かれる。
小太郎が応えてるのを聞きながら、なんとなく朝のことを思い出してしまう。
四ノ宮に抱き締められたまま目覚めた。で、なんだかすごくご機嫌の四ノ宮が、生ハムとチーズのホットサンドを作ってくれて、それがめちゃくちゃ美味しかったなーと。なんか四ノ宮、ご機嫌すぎて。買ってきて良かった、なんて思ってしまう程で……。
「な、ユキ?」
「ん?」
「だからー夕方までゼミで疲れてるよなーって」
「ああ。うん、だね」
頷いて、苦笑い。
「でもそれで夏休みの合宿がないならいいじゃん? オレら夏だからちょっとめんどい」
「そーだよ、これでテストが終わればもう、晴れて自由な夏休みじゃん」
そう言った友達の言葉に、「テストかー」と、皆憂鬱になる。
「ノート足りないの、また協力しようぜ~」
「レポートもまた出るよな」
「そだね」
毎回テストの時は皆で色々頑張ってるので、思いだしながら頷く。
そこで教授が入ってきたので、話は中断。皆も、前を向いて座りなおした。
――――……教授の話を聞きながら、また考える。
考えなくていいって。答えなくていいって言われるけど。
そんなんでいいのかな、と思ってしまう。
でも今は良いって、四ノ宮は何度も言う。
……オレがまだ、ふっきってないから。
ほんとはまだ言わないつもりだったって、四ノ宮は言ってる。
和希のこと。ふっきってない、か。
確かに。完全に、忘れたとは言えない。和希とのことは、オレの中に大きな傷みたいに残って、オレの全部に、影響を与えてたと思うから。
それこそ、本当に、全部。
一人で生きていきたいと望んで、動いてきた全て。
大学をここに決めたのも、先生のゼミに入ったのも。クラブに、行ってたことも。一人暮らしだって、和希のことがなければしてない。和希と別れてからのオレの全部は、あれがあった故にこうなってる、て感じ。
仲のいい友達皆を切っても、和希に会いたくないと思ってた。今もまだ、それを続けてる。普通に会えない時点で、和希との色々を、ひきずりまくってるのだと思う。
でも、四ノ宮と絡むようになって、四ノ宮に話せたのがきっかけで、全部自分の中だけで抱えていたものが、少し楽になってきてるのは、確か。あの失恋を、あの時言われたことを、人に話せるようになったのは大きいなぁとは、思う。でも、完全には、まだ無理そうで。
四ノ宮と、この先、どう接してたらいいんだろ。
ほんとにこのまんま、何も答えず……でも、あんなに近くに居るのは変な気が……。
四ノ宮はそれでいいって言いそうだけど……。
二限が終わって、皆と歩きながらも、ぼんやり考えていたら。
「カナ先輩!」
後ろから呼びかけられて、振り返ると。
「あ。大地」
「やっぱり学校ではなかなか会えないですね」
苦笑いの大地に、教室とか全然近くないのかもね、と笑う。
「ユキ、食堂いってるね」
小太郎が何となく話し続けそうな雰囲気を察してそう言ってくれたので、頷いて別れた。二人になって、ふと、大地を見上げる。
「大地、こないだありがと」
「こないだ?」
「あの、試合の最後。スマホに連絡くれて」
「ああ。そんなの、全然」
そう言ってから、大地はオレの顔を見てクスクス笑った。
ともだちにシェアしよう!