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第432話「四ノ宮家到着」*奏斗

 翌日水曜。学校帰りに葛城さんが迎えに来てくれた。  昨日はする前に一応止めた。はずなのに。  実際キスされて始まったら、もう。  オレってばもう、一応口で止めてるだけの変な奴なのでは……と、自己嫌悪の嵐の一日だった。  何で断れないんだろう。  何で本気で嫌って、四ノ宮に言えないんだ。そもそも、他の人がダメになってるのに、どうして四ノ宮だけは平気で、全然拒めないし、それどころか、あんなになっちゃうんだ。  四ノ宮がうますぎるのがいけないんだと責任転嫁まで始まる。相性が良すぎるのかな。もう、何されても気持ちイイって、ほんと何なんだもう。  そんなことを考えながら、葛城さんや四ノ宮との車中では、世間話。  合宿の話を四ノ宮がしてるのを聞きながらも、はー、もうオレってば、と、更に自己嫌悪の闇に埋まっていた。のだけれど。  着きましたよ、という葛城さんの言葉に顔を上げたら、え、ここ? と、びっくりしすぎて、考えてたこと、全部吹き飛んでしまった。  予想はしていた。執事の葛城さんやお手伝いさんがいる家だし。会社の創立記念パーティーを、出来てしまう会場があるような家な訳で。テレビで見るようなお屋敷かなあと想像していたけど……思っていたよりすごい感じだった。  門が開いて、門から建物まで、車で結構走って奥の駐車場に入った。 「正面の玄関はもう、皆さま入られているので、裏口から入って着替えてから会場に行きましょう」  葛城さんの案内で、お屋敷の裏の出入り口から、中に入る。  廊下も広い、天井も高い。葛城さんの後をついて歩いていると、いつももばっちりスーツだけど、今日は特に、すごくおしゃれな感じだと気づいた。 「葛城さん、いつもカッコいいですけど、今日は特にですね」  そう言うと、葛城さんが、ふと笑みながら振り返る。 「ありがとうございます。少し余所行きのスーツです」 「奏斗って、葛城のこと、カッコいいって言うよなー?」  むむ、と少し不満げに見下ろされて、だって大人っぽくてカッコいいじゃん、と返しながら、そのムッとしてる顔に苦笑してしまう。 「大翔さんと雪谷さんのスーツは、もっと素敵に出来上がっていましたよ。私も楽しみです」  そう言いながら葛城さんが開いてくれた大きなドアを通って中に入ると、とても広い部屋。広さもそうだけど、天井が高くて、思わず見上げてしまう。  ある程度は想像していたけど、はるかに想像を超えていて。もう全部でっか過ぎて、もはや現実感がない。    何これ。どこもかしこも映画の風景みたい、と思ってキョロキョロ見ましてしまうけど、四ノ宮は普通で……って当たり前か。自分の家だもんね。  部屋の中には、また別のドアがあって、何のドアだろうと思っていたら、そこが不意に開いて、顔をのぞかせたのは。 「あ、ユキくんだ!!」 「あ」  潤くんだった。後ろから瑠美さんも現れて、微笑む。  潤くんが、わーい、と走ってきて、オレの脚にくっついた。 「なあ、潤? いつもオレに抱き付いてきてたのに、どーした?」  四ノ宮が完全に苦笑いで、オレにくっついてる潤くんを抱き上げた。 「あ、ヒロくん」 「気づいてなかったのかよ。奏斗しか見えてないって何?」  ますます苦笑いで、四ノ宮は潤くんの頬をつまむ。そうしながらも、四ノ宮は潤くんのスーツを見下ろすと、ニヤ、と笑った。 「カッコいいじゃん、潤」 「えへへ」  ほんと。カッコイイ。ていうか、めちゃくちゃ可愛い。小さい子のスーツ、サイズはちっちゃいのに、すみずみまで大人のと同じようにちゃんとできてて、もう、可愛くてしょうがない。 「わー、いいね、潤くん」 「ほんと?」 「すごく、素敵だと思う」 「わーい」  めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔が、可愛い。 「ユキくん、こんばんは」  こないだもゴージャスだった瑠美さんは、めちゃくちゃ体のラインが分かる水色のドレスと、アクセサリーで、この上なく豪華。 「うわ。……女優さん、みたいですね」 「あら、ありがとう」  思わず漏れてしまった間抜けな誉め言葉に、でも喜んでくれたみたいで、ふふ、と笑う顔が、可愛く見える。  わー、綺麗なのに、可愛いとか、最強な感じ。呆けていると、四ノ宮にとんとん、と背中を叩かれた。 「奏斗、着替えよ」 「ぁ、うん」 「こっち来て。潤は待ってろよ。――カッコよくなって出てくるから」  待ってろよのところで少し不満げだった潤くんは、後に続いた言葉に、再び笑顔で頷いた。  四ノ宮に促されるまま、さっき潤くんたちが出てきたドアから中に入ると、大きな鏡のある、これまた広い部屋。  葛城さんが、スーツをハンガーにかけたり、色々な小物をケースに置いたり、準備をしてくれている。

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