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第433話「再認識」*奏斗

「脱いだものはこちらに入れてくださいね」  カーテンで仕切られたところで、葛城さんがカゴを渡してくれた。  服を脱いで軽く畳んでカゴに入れて、着慣れないなりに、なるべく手早く着替えて、靴下と靴も履いた。ネクタイとジャケットを残して、ベストまで着終えたところで鏡を見る。  すごく着心地がよくて、驚く。サイズを測ってもらって作ってもらうってこんな感じなのか、と感心していると、隣で四ノ宮がカーテンを開けた音がしたので、オレも仕切りを開けて中から出た。 「――――」  隣で着替えていた四ノ宮はもうネクタイまで締めていて、もうほぼ完成してる。  うわ。……似合う。  これは文句なしで、カッコいい。最近なぜか可愛く見えてた、その雰囲気は全然ない。  皆の前で着せたいと、四ノ宮のお父さんも思うよな、なんて思ってしまった。何も言葉が出ず、ぼーと見てしまうと、オレを見つめていた四ノ宮が。 「奏斗、すごくイイ。似合う」  ふ、と笑むいつもと同じはずの笑顔まで、なんだか、違うように見える。  ……ほんと。カッコイイ奴だってのを再認識。 「奏斗、めちゃくちゃ似合ってるよ」  まっすぐ見つめられて、ありがと、と頷く。 「奏斗、ネクタイは締めれる?」 「ん、多分?」  そう答えると、ふっと笑う四ノ宮。 「多分って。あんまりやったことない?」 「うん、何回か、かな。ネクタイ、縁なかったから」 「やってあげるから貸して」  逆らうことなく四ノ宮の手にネクタイを委ねると、するりと首にネクタイが掛かる。  すごく近くで、四ノ宮が、なんだかとっても嬉しそうに続ける。 「奏斗にネクタイ締めてあげるとか、すげー嬉しいかも」  クスクス笑う四ノ宮に、葛城さんが「大翔さん、時間がないですよ」と苦笑い。 「いいじゃん、ちょっとくらい遅刻したって」 「ダメですよ」  苦笑交じりの即答に、四ノ宮も、はいはい、と言いながら、きゅ、と最後、ネクタイを締めてくれた。 「ん、出来た」 「ありがと」  言って見上げると、すごく嬉しそうな、キラキラした視線。  四ノ宮にこんな瞳で見られる日が来るとか、ほんと、最初は思わなかったな。最初の頃はむしろ、眉顰められて見られていたような気がするし。  そんなことを思いながら、ジャケットに袖を通す四ノ宮を見て、オレも同じくジャケットを着た。  ほんと、オーダースーツってこんな感じなんだ。体にぴったりしてるのに、ジャケットを着ても窮屈な感じは全然なくてすごく動きやすい。入学式とかで着たスーツとは全然違う。 「どう? 着た感じ」 「ん、着心地、すごくいい……びっくりした」  そう言うと、四ノ宮と葛城さんが微笑む。「でしょ」と嬉しそうに笑う四ノ宮に、うん、と頷く。  四ノ宮、パーティーとかは嫌がってるように見えたけど、スーツの仕上がりとかそういうところはちゃんと認めてて、お父さんの会社も好きなんだろうなぁと、その笑顔を見てそう思った。 「ほんと、似合う。全然、七五三じゃないよ」  笑いながらの四ノ宮の言葉に、葛城さんがオレを見て微笑した。 「そんなことを思われてたんですか?」 「着慣れないですし、七五三でも笑うなよって言ってて」  オレがそう言うと、葛城さんはクスクス笑って、首を振った。 「とてもお似合いですよ。社長が、大翔さんと雪谷さんで広告を作ろうとか言いだしそうですね」 「言いそう……あ、それは受けなくていいからね、奏斗」 「ないでしょ」  笑いながら言うと、「ありそうだから嫌だ」と四ノ宮。 「とにかく行こっか」 「ん」  着替えた部屋を出ると、待っていてくれた瑠美さんと潤くんがオレ達を見て、わぁ、と微笑む。 「大翔は見慣れてるけど……ユキくん、本当に素敵ね」 「ユキくんーすごいー」  きゃー、と抱きついてこようとした潤くんを、またも四ノ宮が苦笑しながら止めた。

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