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第436話「ちっちゃい版」*奏斗

 潤くんが、くりくりの瞳で見上げてくる。 「ユキくん、疲れちゃった?」 「ううん、ごめんね。いっぱい話しかけられてびっくりしてるとこ」 「ユキくん、かわいいからだねー」 「可愛い?」  ぷ、と笑いながら、可愛いのは潤くんだよ~と撫でると、「カッコいいがいい」と、口を尖らす。  オレには可愛いって言うのに? と笑ってしまいながら。 「潤くん、食べてて良いよ。あと少し食べ物と飲み物も持ってくるね?」 「うん」 「すぐ戻るから座っててね?」 「待ってるー」  潤くんを席につかせてオレが料理を適当に選んでいると、隣に立った女の子が、きゃ、と小さく声を上げた。  え、と思って目をやると、並んでいた飲み物をこぼしてしまったみたいだった。 「大丈夫ですか?」  テーブルの端にあったペーパーナフキンを女の子に差し出すとともに、少し離れた所にいた給仕の人を呼んで、その旨を伝えると速やかに拭いて片付けてくれた。  ドレスについた飲み物を拭き終えて、女の子が顔を上げる。 「びっくりした。ありがとうございました」  オレを見て、ちょっと焦った顔で、にっこり笑う。  めちゃくちゃ可愛い子だなーと思いながら、いいえ、と答える。  女の子に興味なくても、ちょっと見てしまうくらい、可愛い。 「ドレスが引っかかっちゃって焦りました」 「ドレスは大丈夫そうですか?」 「はい。色のついてる飲み物じゃなくて良かったです」  ふふ、と笑って、それからふとオレを見て、にっこり。 「大翔さんのお友達ですよね? スーツ、すごくお似合いですね」 「あまり着慣れてないのですけど」 「そんなこと無いですよ、このブランド、本当に素敵ですし。似合ってらっしゃって素敵です」  嫌味なく、心底褒めてるといった感じの笑顔。  ほんとに可愛い子だなぁ、と思いながら、ありがとう、と笑んだ時。 「(まい)? どうかしたのか?」  そんな風に言いながら現れた男の人を、「あ、お父さん」と言って、彼女が笑顔で見上げた。 「うん、飲み物、ドレスでひっかけちゃって……助けて頂いたの」 「そうなんだね。それはありがとう」  微笑みながらお礼を言われて、オレも笑顔で、いいえと返した。すごく品の良い感じのお父さん。「紳士」って言葉って、こういう人のためにあるのかなーなんて咄嗟に思う。ああ、四ノ宮のお父さんに雰囲気が似てるかも。落ち着いてて、とても優しい感じ。と思った時、その人の向こうに、おーい、とばかりに手を振ってる潤くんが目に入った。笑顔で手を振り返すと、二人はオレの視線の先を追って、ふ、と笑んだ。 「大翔くんのお姉さんの子だね。あのスーツ可愛いね」 「うん。すごく可愛い」  二人がクスクス笑う。  あ、色々四ノ宮家と知り合いなんだな。ちょくちょくパーティーに出てるって言ってたし会う人たちなら、当たり前か。 「待ってるので、行きますね」 「あ、はい。ありがとうございました」  ニッコリ笑顔がまた可愛らしい感じ。オレも笑い返して、その子のお父さんにも軽く一礼して、その場を離れた。潤くんのもとに戻って、テーブルにジュースと食べ物の皿を置いた。 「お待たせ、ごめんね」 「ううん」  可愛い笑顔で、首を振る。 「誰とお話してたの?」 「飲み物をこぼしちゃった人が居て、その人とお話してた。ごめんね、待たせちゃって」 「ううん」  ぷるぷる首を振って、潤くんは微笑む。  潤くんの隣に座って、一緒に食べながら、パーティーに目を向ける。  うーん。ほんと、別世界だなぁとまた改めて思う。  楽しい気もするけど、いつもの日常とは、全然違うから、不思議な感じ。 「潤くんて、こういうパーティーよく出るの?」 「うん。でも、おるすばんもするよー」 「そうなんだ」 「今日はユキくんいて、楽しい」 「潤くんが居てオレも楽しい」  ああ、可愛いなあ。  潤くんて、四ノ宮のちっちゃい版みたいに見えて余計に可愛い気がする。四ノ宮がそんなには見せない素直全開の笑顔が、たまんなく可愛い。  よしよし、と撫でると、潤くんも、うふふ、と微笑む。

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