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第441話「本気なら」*奏斗
四ノ宮のお父さんが静かに、ふ、と微笑んで、「そうそう、雪谷くん」と改めてオレの名前を呼んだ。不思議に思いながらも、はい、と返事をする。
「こないだのたこ焼きの時に言ってた話なんだけど。大翔を気に入ってる友人の娘に、さっき会わせてみたんだよ。……そしたら大翔、何て言ったと思う?」
「――――」
さっきから気にしていたことだったけれど、それをオレにわざわざ聞く意味の方が、気になる。なんだか少し緊張して、見つめ返すと。
「すごく好きな人がいるから、ってはっきり断られた」
四ノ宮のお父さんはクスッと笑って、「あれはもう、諦めてもらうしかないなって、友人とも話したよ」と言う。
何となく複雑な気持ちで聞いていると、四ノ宮のお父さんが、オレをじっと見つめた。
「大翔のその気持ちが本気なら、認めようかなと思ってるよ。……もし、相手の子も、本気ならね」
その視線と言い方。――少し困って、四ノ宮のお父さんを見つめ返すと。
「あなた、そんなの、当たり前じゃない」
隣でクスクス笑う四ノ宮のお母さん。
そうだな、当たり前なことを言ったね。と四ノ宮のお父さんも笑っている。
四ノ宮のお母さんは多分何も知らなくて一般論を言っていて、お父さんは、オレと四ノ宮のことを、何かしら分かって言ってる。そんな気がした。
四ノ宮、何か、言ったのかな。それとも、鋭いだけ、かな。
オレが何て答えようかと、四ノ宮のお父さんを見つめ返すと。
「まあ大翔は、今は片思いだって言っていたから、きっと今、アプローチ中なんだろうとは思うけど」
「――――」
「でもその内、二人が本気だっていうなら、またこの話をすることもありそうかなと思っててね。――――いつか、の話だけど」
穏やかに笑う四ノ宮のお父さん。
はっきり分かってるにしても、分かってないにしても、どちらにしても考え方が柔軟で、素敵な人なんだろうなと思いながらも……何て返したらいいか分からない。
でも何か言わないとと、口を開きかけた時。四ノ宮が戻ってきて、言った。
「奏斗、デザートもあるし、あっちで一緒に食べよ? 色々あって運んでくるの大変」
そんな風に言いながら、四ノ宮が、戻ってきた。
「食べてきて。おいしいデザートを葛城が揃えてるから」
四ノ宮のお父さんがにっこり笑ってそう言うのと、四ノ宮がオレの腕を引いて、「行こ」と言うのが同時だった。四ノ宮のお父さんと目を合わせると、頷いて微笑まれる。
四ノ宮が来なかったらオレ、何て言おうとしてたんだろ。
――――でも、多分今、オレが答えられることは何もない、のだと思う。小さくお辞儀をして、オレを引っ張る四ノ宮に視線を移した。
「引っ張んなくても行くって」
「ん。潤がめっちゃおいしいから、奏斗と食べたいってさ」
「あ、潤くんが」
歩き出しながら、ふ、と微笑んでしまう。
会うの二回目、しかも短い時間なのに、めちゃくちゃ懐いてくれるの、ほんと可愛い。
「奏斗、潤にめちゃくちゃ優しい顔するよね」
「え。……だって、可愛いじゃん」
「オレにしてくれてもいいんだけど、その顔」
「え……ちょっとていうか、絶対無理かも」
「何で」
「え、だって、潤くん、小さくて可愛いし」
「オレもかわい……くはないかもだけど」
ぬぬ、とちょっと悔しそうに言いなおしてる四ノ宮に、ぷ、と笑いが漏れてしまう。
「……さっきまでの四ノ宮と、違うね」
「ん?」
「さっきまでは、ちょっと知らない奴、みたいだった」
「そっち、取り繕ってる顔だから。今が素だよ」
「取り繕ってるって感じには見えなかったよ。……すごいなーと思った」
そう言うと、四ノ宮は少し黙って、それから、ふ、と嬉しそうに笑った。
「奏斗と並べたのが、オレは一番嬉しかったけどね」
そんなことを平気で言って、オレの言葉を奪いながら、違う部屋のドアを開けて、どうぞ、とオレを通した。
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