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第452話「夏休み」*奏斗
辛さを紛らわすのに、テスト期間はちょうどよかった。
去年と同じように、友達と一緒に泊りっこをして勉強したり、レポートをしたりして、一人になる時間が少なかった。
その間に、四ノ宮の部屋に行ったり、四ノ宮と寝たりするっていうことからは、物理的にも感覚的にも遠ざかることができた。
テスト期間中は、ゼミもない。
四ノ宮には会わないまま、夏休みに突入した。
会おうとして時間を合わせなければ、やっぱりオレと四ノ宮は、会わないみたい。
特にテスト期間中は終わったら教室を出ても良いし、時間も不規則だったからか、姿すら見なかった。
自分が言ったこととは言え、あの日を境に、少し前と同じ。ほぼ、無関係になった。
あんなに毎日毎日一緒だったのに、あっけないなと、思わなくもない。
でも、これでいいんだ。もともとは、そういう相手だった。そう思えばいい。何度も、そう思いこもうとしてる。
だって、後悔は、ない。
あれしか、なかったと、時間が経ってもそう思ってるから。
夏休み初日からの二泊三日で、小太郎たち仲の良い男子五人で旅行をした。海辺の旅館。去年も旅した仲間たち。気もあうし、ただただ、楽しい。
ずっと笑って過ごした。本当に、楽しかった。
旅行を終えて自分のマンションに帰って、シャワーを浴びながら、結構焼けたなーと思う。
自分で大馬鹿だなと思ったのが、四ノ宮に、お土産、買ってしまったこと。渡せるはずもないのに。というか、渡す気もないのに。だって頭にずっとあって、ずっと買おうかどうしようかって思ってるから、もういっそ買っちゃってすっきりしたかったというか。
あれ以来、一度も会ってなくて。……避けられてるのかなとも思うけど、確かめようもないし、もしもそうなら、それはそれで仕方ないとも思う。
旅の途中で、たまたま小太郎が、夏休み前に四ノ宮に会ったって話をしてて、元気に学校に行ってるのは分かってほっとした。相変わらず、いっぱいの人に囲まれてたみたい。
元気で良かった。オレも、なんだかんだ言っても、元気に過ごしてる。四ノ宮のことを思いだすと、何だか喉の奥が痛い、みたいな、変な感覚は、いまだあるけど。
でも、ちゃんと人と会って話して、自分の生活もちゃんとしてる。前みたいに、小さくなって座ったりもしてないし、日中外に出るようにしてるから、ちゃんと夜は、眠れてる。
たまに、目が覚めるくらい。――そのたび、二号、貰ってくれば良かったなと思ったけど。でもそれだと、四ノ宮の代わりに抱き締めることになりそうで、やっぱり、貰わなくて良かったと、思いなおすことも度々。オレ、何を考えてるんだろうと眠れなくなって、結局しばらく、ベランダから、空を見上げたりした。
でもきっと、こんな日々を、しばらく乗り越えていけば、大丈夫になると、自分に言い聞かせてる。
不思議とそこまで辛くないのは、四ノ宮の幸せのためだと思うから。
オレなんかに関わらせて、その先にある四ノ宮の幸せ。奪うわけにはいかない。
誰より、幸せになってほしいって、ほんとに思ってるからな気がする。
夏休みは、日々、色んな友達と会って、出かけたりしてるから、瞬く間に過ぎて行った。というか、そのために、色々企画したり、誘いには全部乗ったり。無理してる気もするけど、出かけてる間は、楽しくて、どうしようもないことを、色々考えなくて済むから良しとした。
ただたまにふと、家で本を読んでいたりすると、ふと四ノ宮を思い出す。隣にいるのかな。今何してるのかなって、思ってしまう。コーヒーを淹れると、マグカップを二つ出したい気分になって、少しだけ、手が止まる。
可愛いなと感じてた笑顔とか、セリフとか。優しく触れてくる感じとか。
そういうのが、なんとなく浮かんでくる。
静かに本を読んでても、隣からは何の物音もしない。今まで物音を気にしたことが無かったから分からないんだけど。防音がすごいのかなぁとか、色々とりとめもないことを考えたりしながら、そんな風に夏休みを二週間位過ごしていた、ある日。
大地から電話がかかってきた。
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