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第455話「優しい場所」*奏斗
◇ ◇ ◇ ◇
部活の集まりの当日。
和希と待ち合わせた喫茶店で、オレは、大分早くから待っていた。
平気になったかも、と言ったって、ドキドキするのは変わらない。
待ち合わせ時間より早く、和希が現れた。
「カナ」
席の横に立った和希に少し緊張しながら、座って、と伝える。
目の前に座る、和希。
改めて見ると。……すごくカッコいいなあ、と思う。爽やかだし。男っぽいし。見た目も、中身も、すごく、好きだった。
「だった」。今、自然と、その言葉が、心の中に浮かんだ。
「和希、大人っぽくなったね」
「……カナこそ」
「なった? オレ」
「なったよ」
ふ、と微笑みあう。
肩から、力が、抜けた。
「カナ、あの時、本当にごめん」
「……うん」
「ひどいこと、言った。色々。どうしようもないって分かってたことまで、言って……後からすごく後悔した」
「……ん」
「何度も謝ろうと思ったけど、今更謝ってもって思って……」
「うん」
「あの頃は、誰かにバレるのが怖くて……カナのこと、好きだったのに、バレたくなくて……ただ、それしかなかった。……ほんと、ごめん」
言葉はとても静かに紡がれるけど、まっすぐな瞳に、多分和希も、ずっと、後悔してたんだろうなと感じた。
オレ達、お互い……もっと早く話せばよかったのかも。……って、オレは、出来なかったかな、それ。
今だからこう思えてる。
「……オレ、あの時、すごく、傷ついた」
和希の顔から、目線を下げて。少し俯いたまま、続ける。
「あんなに好きでもダメになるなら、もう恋なんてしないって決めてた」
「……ん」
「和希にはもう会えないって思って……だから和希につながる、部活の皆とも他の友達とも……連絡とる気無くて、携帯も変えた」
和希が黙ったまま小さく頷いたのを、なんとなく目に映してから、オレは視線を上げて、和希と視線をまっすぐ合わせた。
「でも……もうオレ、平気みたい」
「――――」
「和希とも話せたし。もう、皆の前でも会えると思う。前みたいに仲良く、とかはまだ無理そうだけど……皆と居るところに、お互いが居ても平気な気がする」
「カナ……あ、オレ、奏斗って言った方がいい? カズって呼びたくないなら、合わせようか?」
「――――」
『奏斗』 ここ最近は、その名前って、四ノ宮しか、呼んでなかった。
またそんなことを思い出してしまったら――――四ノ宮の、優しい、呼び方が聞こえるような気がしてしまう。
「……カナ、でいいよ。オレも、カズって呼ぶ。皆もその方が違和感ないだろうから」
言ったこの理由も確かにあったけど。
……四ノ宮が呼んでた、「奏斗」の響きを、そのまま、四ノ宮だけの呼び方に、しときたいなんて。
バカみたいだけど、そう思ってしまった。
「分かった……カナ、さ。聞いてもいい?」
「ん?」
「恋なんてしないって決めてたって言うけど……今は?」
今。
……今は。
「……好きな人は、居る」
初めて、言葉にした。
四ノ宮に伝わることは絶対にないだろうから、ここでならいいかなと思って、初めて。
「そっか。どんな奴?」
「……んー。……変な、奴?」
言いながら、四ノ宮を思い出すと、ふ、と笑ってしまう。
「それってさ、あの時……」
「ん?」
「……いや、なんでもない」
カズは言葉を切って、顔を上げてオレをまっすぐに見つめた。
「オレが言うことじゃないのは分かってるけど……でも、好きな人が出来て、ほんと良かった」
「ん。そだね。カズも、イイ人見つけてね」
「――カナの好きな奴は、変な奴なのに?」
「うん。まあ。そう、だね」
ふ、と微笑んでしまう。
ほんと変な奴だけど。
オレのこと、全部知ってたのに、好きだとか言っちゃって。
ずっと、居るとか。好きとか一生懸命になってくれて。……ほんと、変な奴。
「オレ、もう昔のことは忘れる。カズとオレは、友達で部活仲間。……でも、オレ、カズが幸せに生きててくれたら、すごく嬉しいと思う。やっぱり、少し特別なのかもしれない」
「オレも。誰よりカナには、幸せになってほしいって、思ってる」
オレ達は見つめ合って、ふ、と笑い合った。
その時、もう大丈夫って、ほんとに思った。
オレはもうカズのことを思い出しても、絶望感にさいなまれたりしない。もう血が冷たくなるような感覚もないし、震えたり泣いたりもしない。
そう思えた、瞬間だった。
その後、オレは、カズと一緒に、部活の集まりに参加した。一緒に行ったら、大地が嬉しそうに笑ってて、オレは苦笑いで視線を交わした。
スマホ壊れちゃって引っ越しもしちゃって、一人暮らしと大学が忙しかったから、ごめん、って。
そう言ったら、皆に、もみくちゃにされながら。――――でも思ったよりも容易く、元通りになれた。
カズとは、離れて座った。でも、近づいた時は、少し話したりもした。
カズと別れてから、オレがどうしても近づけなかったその場所は。
前と変わらず、楽しくて、優しい場所だった。
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