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第456話「大きな月」*奏斗

   部活の集まりの帰り。  改札のところで、皆と別れて、真斗に電話をかけた。  皆と楽しく話しながら、ふと気付いた。  オレが、もう一つ。自分でどうにかしなきゃいけないことがあるってことに。  高二のあの時から、完全に止まってしまった、家族の時間。 「あ、真斗? ……今、父さん、居る?」 『うん、居るよ。……どうしたの?』 「悪いんだけど。父さんに話があるって、言ってみて。聞いてくれる気があるか」 『どんな話?』 「オレのこと。……今までと。これからのこと」 『ん、分かった。少し待ってて。掛けなおすから』 「あ。喧嘩、しないでね。話す気がないなら、また日を改めるだけだから。時間がかかるのは、もう分かってるから」 「分かってるって。待ってて」  苦笑いの真斗との電話が切れる。  和希と話せた勢いで、話してしまいたかったけど。  父さんは無理、かな。  理解が追い付かないんだろうな……そういう人が居るのも、仕方ないとは思うから。  気長に、いくしかないよね……。    少しして真斗からの、着信。 「もしもし、真斗。ごめんね、怒られなかった?」 『平気。親父、聞くって』 「え?」 『ん?』 「……真斗、何か言ったの? 怒ったとか、すごい文句言ったとか……??」 『なんだよそれ。してないよ』  真斗がクスクス笑う。 『ていうか、オレじゃなくて、母さんが、したみたい』 「え?」 『ずっと言ってたみたい。奏斗と話してって。こないだのおみやげ、カナ、駅まで届けに来たのに家に来なかったでしょ。それを聞いて、母さん、離婚も考えてるって親父に言ったらしいよ』 「え゛??」 『息子を分かろうともしてくれない人とは居られないとか、言ったらしい。今、親父が言ってた』 「――――母さんが……そうなんだ……」  ……あの母さんが、離婚、とか。  そんな話をしてくれるくらい、オレのこと、気にしてくれてたんだ……そっか。  ……何だか、気を抜いたら、涙がでそう。 『だから、おいでよ。今、どこなの?』 「二十分くらいでつく」 『じゃあ待ってる』 「でも……実際話したらまた修羅場になるかも……迷惑かけたら、ごめんね」  つい、先に謝ってしまうと、真斗は苦笑を含んだ声で言った。 『そういうのは迷惑とかじゃないし。てか、母さんが味方で今回本気っぽいから、親父もすこしは聞くと思う」 『……真斗、オレね」 『ん』 「今日、和希と二人で会ったんだ。その後、部活の集まりもいった」 『――そうなの?』 「うん。……心配、掛けてごめんな。オレ、もう、平気そう」 『良かったね』 「うん。父さんとも、ちゃんと話せたらいいけど……」  そう言いながら、改札を通って、ホームに向かって歩いていると、真斗が電話越しに笑った。 『やっぱりカナ、好きな人居るだろ』 「……何で?」 『失恋は、恋すると和らぐしさ。あと、好きな人居ると、強くなるよね』 「……何それ。経験あるの?」 『あるよ。それなりに。好きな子が、先輩と付き合ったりさ。まあ、オレも色々あるよ』 「え、そうなの? 全然聞いたことないじゃん」  真斗はバスケ一筋なのかと思ってた。って、そうか。それなりに、ちゃんと恋とかしてたんだ。  と、なんだか弟の成長に、感動していると。 『……なんとなくカナに、恋の話とかはすんのタブーだと思ってた』  苦笑いの真斗に、オレも、かなり困り笑い。  ……ていうか、そうだった。真斗の方がよっぽど大人だったっけ。 「ごめんね、気、使わせて」 『いいよ。これからはするかも。……とりあえず、待ってる』 「うん」  真斗との電話を切って、実家に向かう電車に乗り込む。  ――――父さんと話す。それどころか、実家に帰るのも、一人暮らしを始めて以来。  正直、すごく緊張するけど。  ……オレのせいで離婚とかは、困るけど。……それ位の気持ちで、母さんが父さんに言ってくれてたんだと思うと、じわ、と熱くなる。  ああ、これも、四ノ宮に、話したいな。  ……言えなくしたのは、自分だってことも、分かってる、のに。  何か嬉しかったりすると、四ノ宮に話したいなって、思っちゃうのは。  ……どうしようもないみたいで。  電車を降りて、歩き出すと、目の前に見える月が、とても大きく見える。 「――――」  四ノ宮と、こんな感じのでっかい月、見ながら歩いたこと、あったなぁ。  でっかいねってオレが騒いでたら、錯覚ですよ、とか言われたっけ。まだ敬語で、話してた頃だ。  錯覚じゃつまんないって、オレが文句言ってたら。四ノ宮、何て言ったんだっけ……。  ……あ、思い出した。  月が昨日食べ過ぎたんじゃないですか? とか……。  絵本にでも出てきそうなこと、言ってくれたんだっけ。  懐かしいな。  ……あのままの関係で。楽しく居られたら。……今も話せてたかなあ。  まあ、大体にして。醜態さらしまくった、オレが全部いけない気がするから無理だろうけど。  ……何で四ノ宮には、最初っから全部、晒しちゃったんだか。  泣いたり怒ったり。……襲われそうになったりして、あんな迷惑ばっかりかけたのに。  なんで、今浮かぶのは、四ノ宮の笑顔ばっかりなんだろ。  ……いっつも、オレに、笑顔、向けてくれてたってこと、だよな。 「……でっか、月」  月を見上げていたら、思わず漏れた声は。  ……なんだか少し、震えた。

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