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第457話「ただいま」*奏斗

 月を見上げながら、久しぶりに歩くわが家への道。  感傷的になってるのかも。   少し足を速めて歩いた。家に辿り着いて、インターホンを鳴らすと、その瞬間に玄関が開いた。驚いてると、母さんが出てきた。 「お帰りなさい」  笑顔で迎えられて、ただいまと言いかけて、不意に涙ぐんでしまった。  ――やば。泣いてる場合じゃないのに。 「おかえり、カナ」  真斗が出てきて、「何泣いてんの」とクスクス笑いながら、背中を押してくる。「泣いてないし」と言うと、苦笑される。  ぐし、と涙を拭いてから、オレは家に入った。父さんはリビングのテーブルに座っていた。ちょうど夕飯が終わったところ、みたい。  テーブルに、父さんと、その向かいにオレ。母さんと真斗は、少しだけ離れたキッチンのカウンターのところに立った。 「久しぶりだな……」 「……うん。元気? 父さん」 「ああ」  父さんは、オレを見て、頷く。 「父さん、オレね、中学位から恋愛対象が男だって、気付いたんだ。……あの時は別れたばっかりで……説明も全然できなかったけど……」 「――――」  少し下を見ていたオレは、父さんを、見つめ直した。 「ちゃんと人を好きになって、一緒に居たい人と……しっかり、生きてくつもりだから」 「――――」 「頑張って生きるつもり。……父さんには、理解してもらえないかもしれないけど……」  オレの言葉を黙って聞いていた父さんは、少しして、分かった、と言った。  ……分かった?? つい、首を傾げる。少し離れてに立ってた、母さんと真斗も、顔を見合わせてるのが分かる。  少しの沈黙の後。  父さんは、オレを見つめた。 「まだ、完全に理解ができたとは言えないが――――お前がちゃんと生きてくのを、見守ろうとは、思う」 「父さん……?」 「……子育ては、母さんに任せっぱなしだったが……一応、親だからな」  父さんのセリフに、オレが反応するより早く、母さんが、ふ、と笑った。 「一応って、何ですか」  母さんが少し不満げな表情で言う。でもちょっと、嬉しそう。……というか、泣いてる、かも。 「夏休みなんだろ。泊っていけばいい」 「え……いいの?」  父さんの言葉に、思わず聞き返してしまったら。 「奏斗の家だろ」  と、ぶっきらぼうな言い方で、答えが返ってきた。 「――親父、見損なってたけど、見直したかも」  真斗が失礼なのかなんなのか分からないことを言った後、はは、と笑って、オレの腕を掴んだ。 「カナ、オレの部屋で寝よ」 「え」 「布団、出そ」  引っ張られるまま、階段を上りながら振り返った最後で、父さんが少し笑った顔が見えた。  隣に、母さん。  ……あ、なんとなく。オレと真斗、ここに居ない方がいいのか、と思って、真斗の後をついて二階の真斗の部屋に入った。 「離婚まで出した母さんの勝ちって、感じ。――――親父も、一応、家族大事には思ってるってことが分かって、良かったよな」 「一応って……」 「自分でも一応って言ってたし」 「確かに言ってたけど」  二人で苦笑い。 「多分まだちゃんと理解はできてねーんだろうけど。頭かたそーだし。でも、頑なだったのを歩み寄ったのは確かだと思う」 「……うん」 「一年半もかかってるけど」 「……ん。だね」  またまた苦笑いで顔を見合わせる。 「とにかくさ」 「ん?」 「おかえり、カナ」 「……ただいま、真斗」  二人で顔を見合わせてクスクス笑ってしまう。

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