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第458話「真斗の推し」*奏斗

 それから一時間後。  シャワーを浴びて、真斗の服を借りて、並べて敷いた布団に、二人で寝転がった。  しばらくは、バスケのこととか、他愛もない話をしていたのだけれど、ふと、真斗がオレを見つめた。 「……なー、カナ」 「ん?」 「カナの好きな人ってさ、もしかして四ノ宮さん?」 「――――」  ぴき。と全身固まるのが分かった。 「何で?」 「あの人が、カナの隣にいてくれたらいいなって思ったから。半分願望込み」 「てか、そこまで知らないでしょ」 「まあそうなんだけど。……オレさ、四ノ宮さんと電話で話したことあるんだよ。少しだったけど」 「四ノ宮が電話に出てくれた時?」 「そう。あん時、オレ、カナって心配なとこあるのでお願いしますって言ったんだよね。はっきり、大丈夫、て、言ってくれてさ」 「――――」 「なんかさ。その大丈夫、がすげえ安心したというか……」  はは、と笑って、真斗がオレをじっと見つめる。 「違うの? 四ノ宮さんじゃない?」  嘘ついてもしょうがないか、とオレはため息をついた。 「好きって、言われて……オレも、好きだと思ったんだけど」 「じゃあ、両想いじゃん」 「でも、断って、今はもう、会ってない」 「は? 何で?」  嬉しそうな顔をした真斗は、眉を顰めて、首を傾げた。 「住む世界が違いすぎて。あとオレ達、出会いとか色々がちょっと特殊すぎて」 「はー? よくわかんね。別に特殊だっていいじゃん」 「オレも、もう良く分かんないけど」 「すげーもったいない気がする」 「……言わないでよ」  は、とため息をつくと、真斗は苦笑い。 「後悔してんなら、カナから行けば?」 「――――無理。後悔は、してないし」 「後悔してなくても、もったいないとは思ってる?」 「もったいない、っていうか……」  適当な言葉が、見つからない。なんだろう。 「もっと、普通に出会ってて……四ノ宮がもともとゲイで……あんな、ドラマに出てきそうなお金持ちの跡取りじゃ無かったら、よかったなーて思うけど。でも、そこは変えられないから、もう絶対、無理なんだよね」  真斗は、うーん、と唸っていたけど。 「跡取りかぁ。反対されそうってこと?」 「……いや。……お父さんが、二人が本気なら考える、とか言ってくれて」 「え、じゃあ良いじゃん。うちの親父みたいに、難攻不落だったら、厳しいけど」  はは、と笑いながら言って、真斗は、じっとオレを見つめた。 「カナはさー……多分、カズくんのことがあったから、色々考えすぎなんだよ。ていうかもともとな気もするけど。いいじゃん、考えないで、好きだって言っちゃえばいいのに」 「……そうできたらいいのにって、思ったよ」  枕にぽふ、と沈み込む。すると、仰向けになった真斗が、んー、と唸りながら。 「出会いと、もともとゲイじゃないのと、跡取りってことがダメなの?」 「……うーん……そこ、おおきいよね?」 「んー……まあ、そう、なのかな」  そう返した後、真斗はちょっと黙ってる。 「ああ、でもあれか、カナ」 「ん?」 「四ノ宮さん自身は、好きってこと、だね」  ぐ、と言葉に詰まる。 「真斗くん」 「……ん?」 「……まっすぐに、それだけつきつけんの、やめて」 「――――めんどくさいなぁ、カナは」  苦笑いとともに、大きなため息をつかれる。 「好きなら好きでいいじゃん。それで付き合って、ダメになったらダメになったでいいじゃんか。好きな人には、好きって言った方が絶対いいよ」 「うわー。……なんか、眩しい、真斗……」  オレの弟ってば、キラキラして見えますけど。  そんな風に言われてしまうと、オレがバカみたいに思えてくるけど。 「オレは、四ノ宮さん推しで」 「……もー。真斗が、四ノ宮と直接近くで会ったのって、最初の時だけじゃないっけ?」 「そーだよ」 「……顔覚えてる?」 「んー。超カッコよかった気がするけど。後は観客席で遠くから見たかな。見れば分かると思う」 「……あだ名、王子だよ」 「分かる」  真斗は、クスクス笑ってから、不意に真顔になった。 「オレの応援にまで来てくれるとかさ、普通しないよ」 「……まあ、あの時は色々事情があった、っていうのもあるけど」  最初は、あの、ホテルでやらかした翌日だったんだっけ……。 「あんな風に応援してくれてさ。嬉しかったから。やっぱり、オレは、四ノ宮さん推し」 「――――」  弟のまっすぐな言葉に、なんだか言葉を奪われてしまう。

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