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第460話「ドキドキの」*奏斗
その日から数日、久しぶりの実家で、ゆっくり泊まることになった。
母さんや真斗、それから、父さんとも色々話した。
高二のあの時以来の、家族の時間をゆっくり過ごしていた時。
ゼミのトークルームに誘いが入った。来週月曜、帰省してない予定の空いてる人達で、一回集まりませんか?という連絡。参加の人は、椿先生に連絡をするように、とのことだった。
四ノ宮、来るかな。元気な姿、見たいなとも思うけど、でも会いにくいな、とも思う。
迷いながらも、とりあえず、参加は決めた。
週末までのんびりして、月曜の午後。
「またゆっくり帰ってきてね」
「また泊りに行くからー」
父さんは仕事で、朝に別れを告げていたので、母さんと真斗に見送られて、実家を後にした。
こないだ久しぶりに帰った時はものすごく緊張してたけど、ゆっくり過ごせたおかげで、次は普通に帰ることができそう。嬉しく思いながら、駅までの道を歩く。
ゼミの集まりは、大学の駅前にある居酒屋でやることになった。つまり、オレのマンションがある駅。
四ノ宮、来るかな。……あの日から顔を見てないとか、ほんとはちょっと驚いている。いくらなんでもこんなに会わないと思わなかったし。
でも会ったら、無視されることもあるのかな。もしそうされても、何も言えない。そんな風にも思うので、会うのが怖い気持ちもある。
やたらドキドキしながら参加したけれど――――四ノ宮は集合場所には来なかった。
集合場所でまず小太郎に会って、ちょっと和む。それでも、内心ドキドキしながら集合時間まで、待った。そこには現れなくて、ほっとしたような、がっかりしたような。
集まった皆で店まで移動して、適当に座っていく。帰省してる人も多くて、先輩達を入れても普段の人数の半分くらいしか居ないので、長机二つで収まってしまった。いつもだと周りに座った人の声しか聞こえないけど、この人数だと皆で話すこともできる感じ。椿先生が、四ノ宮のことを話しているのが聞こえてきた。
四ノ宮家の夏休みは家族で海外で過ごすのが絶対の決まり事みたいで、先生と連絡を取っていた時は、海外に居たって。
それを聞いて、金持ちって感じだよなーと、先輩たちが騒いでいた。
そうなんだ、家族で海外かぁ。……そりゃ来ないか。
来ないのが確定すると、やっぱりほっとしたような、拍子抜けのような。
ああ、だから、夏休みから隣は全然気配が無かったんだとも思ったけど。
避けられてた訳じゃないのかと、これまたほっとしたような、おかしな気分。
久しぶりのゼミの皆。楽しいけど、なんだか胸が、痛い。笑ってるけど、ほんとは笑いたくないような。
ここに、四ノ宮が居ない。……別にそんなのあり、だし。今日は居ない人、他にもいっぱいいる訳だし。
ていうか。これからだって、離れて、別に生きるって決めて断ったんだから、あいつとは居られないのに。
オレ、四ノ宮に。会いたかった、のかな……。
会えないって分かって、ほっとした気持ちも、確かにあったのに。
今日は来ない、会えないっていうのが、どんどん心の中で大きくなっていく。
今度いつ、顔が見れるんだろ、と思ったら。
なんだか、ものすごく、切なくなってきて。胸が締め付けられるみたいに、痛い。
でも自分で決めたことだ。
一緒に居たいって言ってくれたのを、断って。……好きすら、伝えずに、離れることを選んだ。
だから、会えなくても、話せなくても、仕方ないのに。
どうやらオレ、自分で意識する以上に、顔だけでも見れたら、と思っていたみたいで。
もう、落ち込み方がおかしい。
どうしよう。とにかく、今日はもう帰ろうかな。体調悪いって言えば、帰れるだろうし……。
「ユキ食べてる?」
「あ、うん」
小太郎に聞かれて、笑顔を繕って、頷いた。
どうしようかな、体調悪いって言っちゃおうかなと思った瞬間。いらっしゃいませーと店内に店員さんたちの声が響いて、言おうとした言葉はとりあえず飲み込んだ。
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