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第461話「再会」*奏斗

 少しして、椿先生の居る方の席がわっと沸いた。何気なくそちらを見たら、四ノ宮が、見えた、ような。 「え」  ……幻覚かと思った。あまりに顔が見たいから、見えたのかと。数秒見つめて、本物だと認識した時。 「四ノ宮、家族と海外だったんじゃないの?」  オレのしたかった質問を、先輩が言ってくれた。すると、四ノ宮は、ふ、と苦笑しながら。 「これに出たいから先に帰ってきちゃいました」  なんて、冗談めかして答えてる。 「えーマジで? このために帰ってきたの?」 「そんなにここが好きなの?」  皆がめちゃくちゃ盛り上がったまま、四ノ宮を座らせて、まあ飲め飲め、と笑う。 「オレ、まだ飲めませんって」 「いっぱいぐらいいーじゃん」  盛り上がりかけた周囲を、椿先生が「だめですよ」と、笑顔で制した。 「じゃあ飲み物、頼みな?」 「食べ物も好きなの頼んでいいぞー」  先輩達が楽しそうに言うのに、四ノ宮は、笑って答えてる。  ――――少しの間だけ見ていたけれど、四ノ宮は、こっちは見なかった。  多分、今までなら、絶対目があったと思うけど……でも、これも、どうしようもないことなんだと思う。 「四ノ宮、帰って来たんだね。なんかすごい盛り上がってるなー」  小太郎がクスクス笑って、言ってくる。 「そうだね」  頷いて、小太郎側に視線を向けて、四ノ宮が視界に入らないようにした。  ――――四ノ宮を見た瞬間、泣くかと思った、オレ。  あの日別れて、それから、一度も会わなくて。  ずっと。……あれでよかったと思ってて。色んな友達と、楽しいことだけしていたし。  和希や父さんともちゃんと話せて、今まで困っていたことがなくなって――――すごく、楽しく、過ごしていた、はずなのに。  四ノ宮の顔を見た瞬間。  胸の奥がぎゅ、と痛くて。  ああ、オレ、四ノ宮にすごく会いたかったんだって。  思ってしまった。  目が合わなくて、寂しいなんて、思う権利がないのは分かってるのに。  切なくて、息がうまく、出来ない気がする。 「これ、おみやげです。むこうでおいしかったチョコレート。回してください」  そんな声がして、おお~と騒ぐ先輩たち。まもなく、チョコの箱が回ってきた。 「ユキ、チョコだってさ。おいしそうだよ」 「あ、うん」 「ほれ取って」 「うん」  綺麗に包装されたチョコをひとつ取ると、小太郎がそれを隣の人たちに回していく。 「わざわざおみやげとか買ってくんの、四ノ宮らしいよな。ほんといい子だねぇ……」  ちょっとふざけた言い方で言って、クスクス笑う小太郎に、ん、と微笑んで見せる。  四ノ宮がいい奴で、誰より優しいのは――――多分オレが、一番、知ってる。  ……知ってるけど。   「――――」  でも。四ノ宮のことが好きなのを思い知ったからって、今の状況の何かを変えたい訳じゃない。  こんなに好きだったのは予想外だったけど。結論は変わらない。  四ノ宮の未来に、オレは居ない方がいい。  そう思うのは、変わらない。なのに。  なんでこんなに、苦しいんだろ。  もう会わなくなって、結構経つのに。……どうしてこんなに。  ……でもダメだ。  ここで体調悪いとか、元気ないとか、見せられない。  四ノ宮が来てしまったからには、もう、オレは超元気に、明るく笑顔でいないと。  四ノ宮のこと気にしてるそぶりなんて見せちゃだめだ。  一緒に帰る訳にはいかないから……四ノ宮が帰るなら二次会に出るし、四ノ宮が二次会行くなら、オレは帰ろ。  よし。とにかく、ここはあと二時間くらいかな。がんばろ。考えるのは、一人になってからにしなきゃ。   「――――」  景気づけに、目の前にあったドリンクを手に取って、ぐい、と飲み干した。  しばらく小太郎や周りの人達と、普段より元気な位で話してると、不意に小太郎に「あれ? ユキ、顔赤くない?」と聞かれた。 「ん?」  ……そういえば、さっきからちょっと顔が熱いような? あれ、オレ、熱出てる?  熱出たなら、帰れるかな。四ノ宮のこと関係ないもんね、熱なら。  そんなことを考えていたら、向いに座っていた先輩が「ん?」と言いながら、オレとグラスを見比べ始めた。 「なん、ですか??」 「え、ユキ、もしかして、ここにあったオレのモスコ、飲んだ?」 「ジンジャーエールは飲みましたけど?」 「ジンジャーエールはこっちだろ。オレのは、酒……嘘だろ?」  ……ジンジャーエールの酒って……前にもそれ、飲んだような。  そんなことを思いながら、ふらと揺れた時。後ろ、誰かに頭がぶつかってしまった感覚。 「あ、ごめ……」  謝りながら、ぶつかった人を振り返ったら。そこに立っていたのは四ノ宮で。オレの頭がぶつかったのは、四ノ宮の脚、だった。心臓が、飛び跳ねるみたいにどきっとした。 「信じらんない。またその酒ですか……」  四ノ宮の呆れた声がして。オレを見下ろす、呆れた表情。  隣でクスクス笑ってる小太郎に、視線で助けを求めてしまう。……それは全然小太郎には伝わらないけど。

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