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第462話「好きだって」*奏斗
その後、椿先生も近くに来てくれてオレの様子を見ると、四ノ宮に「ユキくん、連れて帰ってあげてくれる? 近いんでしょ?」と言った。
「来たばっかじゃん、四ノ宮」とか、「ユキ、寝かせてあげた方がいいんじゃないかな?」とか、皆の声が色々したけど。
「皆の顔も見れたしお土産も渡せたので。とりあえず、今日は先輩、連れて帰ります」
四ノ宮の声がして、先生が、よろしく、と笑うと、皆の声は収まった。タクシー呼ぶ? と聞く先生に、歩いて帰れる距離なんで、と四ノ宮が言う。
すっかりおんぶされた状態で皆と別れて、四ノ宮が歩き始める。
全部やりとり聞こえてたけど――――ほんとは拒否しないといけないところだと思うんだけど。
……四ノ宮の背中に、今だけ甘えようと、思ってしまった。
今だけ。
これで、本当に、最後にするから。なんて。……バカみたいだけど。
それにしても椿先生、何で四ノ宮に頼むんだろ。皆の前で、近いって言ってたけど。もう少し店に転がしといてもいいだろうし、その後タクシーに乗せちゃえばいいような気もするし。近いってだけじゃない気がする。
絶対何か、悟られている気がする。まあでも、この先離れてたら、そっちも悟ってくれそうだから、もう、いいかな。
……にしても。ほんと、全部お見通しみたいで、ちょっと怖い……。
「もーほんと。何してンのかなあ……」
色々考えていたら、四ノ宮のゆっくりな声が、聞こえる。「ごめんね」と小さく答えると。
「ストロー入ってない飲み物を一気飲みしてるの見えてさ。あれ、アルコールじゃないのかなって、思ったんだよね……」
「ストロー……」
「あの店、ジュースには入ってて、アルコールには入ってないんだよ。今まで気づかず飲んでた?」
「……気にしてなかった」
「そっか」
四ノ宮は、クスクス笑って、少し黙ってから。
「ジンジャーエールの酒って……デジャヴュかよって感じ……」
苦笑してるのが、分かる。
次会った時、どんな声で話してくれるかなと……思っていたよりも、すごく優しい声に、なんだかまた、喉の奥が痛い。
こんな声で、話してくれるんだ。
あんな風に、断ったのに。
四ノ宮と、先輩後輩で、普通に話せるようになったらいいなんて、都合のいい考えがふっとよぎったけど。
ああ、でも……オレの恋愛感情、なくさないと、むり、か……。
「でっかい月。前にもこんなの、一緒に見たよね」
クスクス笑いながら、四ノ宮は優しく言った。
――――四ノ宮が今思い出してるのは、こないだオレも思い出してた時のことかな。また少し、胸が痛い。
「奏斗、気持ち悪くない? 平気?」
聞かれて、小さく頷く。
「話しててもいい?」
続けてそう聞かれて、また頷いた。
「返事しなくていいからね」
四ノ宮はそう前置きしてから、ゆっくりした口調で話し始めた。
「長期休みの家族での海外旅行って強制参加でさ。ほとんど子育てとかしてない人達なのに、そこだけは家族で楽しく過ごそうって、夏と冬は絶対旅行に連れていかれるんだよ。ほんとは学生の間だけの筈なんだけど、今回は姉貴と潤も一緒だったよ。……奏斗とあんな風に別れて、全然行きたくなかったけど、それに行かないと、学費とか全部ストップするとか脅されててさ」
クスクス笑って、四ノ宮が言う。
「向こうで時間あったし、家族と色々話した。親父が言ったことも聞いた。本気なら認めるって言ったんだってね。……元々好きでもない時に、本気だとかそんなの言われたって奏斗も困っただろうなーと思ってさ。……ごめんね」
ふ、と苦笑いする四ノ宮。
――――そんなの謝らなくていいのに。と思いながら、ぼんやりと聞き続ける。
「ゼミの連絡が来て参加する人を聞いたら奏斗も居て、そしたら顔が見たくなっちゃってさ。オレが行くって言ったら来ないかもしれないから、参加するとは言わずに急いで帰ってきたんだよね。……迷惑だったかもしれないけど」
呟いてる四ノ宮が、クスッと笑う。
「でも、こんなんになるなら、来て良かった」
優しい声。
ああ、オレ、四ノ宮がやっぱり好きだな……。
――――もし、明日死ぬと決まってるなら、オレ。
今、好きだって、言えるのに。
未来があるから、言えないとか……。
真斗の、めんどくさいねって声が聞こえるような気がする。
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