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第463話「四ノ宮の背中」*奏斗

「向こうで家族と二週間、色々話してさ。オレが本気で奏斗を好きだったのは、皆、分かってくれたんだけど……まあ、でももう振られたけど、って言ったらさ。一度振られた位で諦めるのかって聞かれるの。ていうか、うちの家族、いくらなんでも理解ありすぎて逆に不思議でさ……」  四ノ宮がそんな事を言いながら少し笑う。 「親父に、反対しない理由を聞いたんだよね。何でそんななのって。そしたら、奏斗といるオレが、今までで一番素直で楽しそうだったから、とか言われて。……あと、葛城にも聞いたら、側に居るだけで自分を出せて安らげるとか、そういう出会いはめったにないと思う、みたいなこと言われて……特に大翔さんは、とか、言うんだよね……」  クスクス笑ってる四ノ宮に、なんて答えていいか良く分からないまま、聞いていると。 「姉貴も母さんも賛成してて、母さんは、あんなに可愛い息子ができるの?って喜んでたし。つか、振られたけどって言ってたんだけどね、オレ。――――うちの家族ばっかり、その気で……ちょっと笑えたけど」  苦笑しながら言った後、「あ、でも」と可笑しそうに、四ノ宮は笑う。 「一人だけ反対してるんだった。あのね、潤は反対なんだよ。ユキくんは潤のだもんって言ってた。意味分かってんのか知らないけど……オレ達、ライバルらしいよ」  笑う四ノ宮の声が、優しくて。背中から、笑う震動が伝わってきて、なんだかすごく、心に響く。  何で四ノ宮の家族は、そんな風に言ってくれるんだろ。  ほんとにそんなのいいって言ってるのかな。……そんなの、いいわけないのにって、どうしても思ってしまう。 「奏斗があの時言ってたことなんだけどさ――――始まりからおかしくて、変に関係持って、一緒に居すぎたから勘違いしたって言ってたじゃん? あれね、色々違うんだよね。オレが奏斗を意識したのはもっと前でさ」  何だろう。もっと前。  あれより前ってなると、全然絡んでなかった頃になるけど……。 「随分前に、ゼミ室で奏斗が相川先輩達と話してるのを聞いちゃったんだけど……オレのこと、ほんとに王子かって疑うみたいなこと言ってたんだよね。何でそんなに話もしてもないのにバレたんだろうって、ほんと驚いてさ。……それから、奏斗のこと、ずっと気になってて」  ああ、それ……聞かれちゃってたんだ……。  心地よく揺られて、重くないかな、なんて思いながら、四ノ宮の声を聞き続ける。 「それから、奏斗のゲイがバレたホテルね。これ、ずっと言えなかったんだけど。……ひかないでね?」 「……うん?」 「あの時、ほんとはクラブを出るところで奏斗を見かけたんだよ。それはほんとに偶然だったんだけど……奏斗をっていうか、すごく奏斗に似た奴って思って……それが男と並んで出て行くのを見て、オレ、わざわざついて行ったんだよね。偶然ホテルの部屋の前で会ったんじゃなくて、クラブから後をついてって、その二人が取った隣の部屋を取って、急いで後を追ったんだ。あん時は、オレのことを疑うような先輩が、男とホテル行くとか信じたくなくて。違うって確かめたくて、ついてったつもりだったんだけど……」  言って、四ノ宮は、クッと笑った。 「おかしいよね、普通そんなんでついて行かない。……今思えば、やっぱりオレ、奏斗のことが好きだったのかも。ホテルで会った後、協定結んだ時もさ、素のオレのことを四ノ宮らしい、とか言っちゃうしさ。……オレにとっては、多分最初から特別だったんだと思う。だから、別に、一緒に居たから勘違いして、特別になった訳じゃないんだよ」  四ノ宮は、ホテル、オレについてきたの? 偶然、じゃなくて……?  ――――何だか、考えがまとまらない。 「――――……」  ……四ノ宮の背中は。    こんな気持ちの時でも。  ……すごく安心する場所で。  つかまる振りで少しだけ、四ノ宮の服を握り締める。

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