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第464話「そんな風に」*奏斗
オレが、後ろで俯いていると。
四ノ宮は、静かな、優しい声で話し続ける。
「最初はオレはゲイじゃないと思ってたし、手を出したりしちゃだめだって思っててさ。奏斗が薬を飲まされて連れてったホテルだって、結構長いこと我慢してたんだよ。我慢しないと、ヤバかったし」
……ほんとそれ、ごめん。なんて謝ったらいいかすら、よく分からない。
もう、消え入りたい気持ちで、何も言えずにいると。
「言っとくけど、こうなったの、そのせいじゃないからね。きっかけだったかもしれないけど、オレが奏斗を抱くって決めた時は、もうずっと居るって決めてたし。それだけの気持ちはあったから」
ずっと居るって。決めてたって。
……なんか本当に、胸が痛い。
「恋人が出来たら引くって線を引いたのは、奏斗が、誰ともそうならないって言ってたってからだしさ。……あの時、好きだから抱くなんて言ったら、奏斗、断固拒否したでしょ? それに、オレの好きも、はっきり自覚したのは結構後だったし……――――だからね。偶然とか勘違いとかじゃなくてさ。オレは、奏斗が思ってるよりずっと、奏斗のことばっか考えて、ここまできたんだよ。たまたまが重なったとか、勢いで抱いて勘違いしたとかじゃ、ないよ」
優しい声。……そんな風に、思っててくれたんだ。
……思わず、ぎゅと瞳を閉じる。
四ノ宮は一度立ち止まって、オレを背負いなおした。
「あ。重い、よね……降りるよ」
「平気。さっきふらふらしてたし、マンションまで行く――――でもごめん、もうちょっと、前に腕まわしてくれる? その方が楽」
「……」
おぶってもらってるオレが嫌がるのも変だと思って。そっと、四ノ宮の前で、腕を組んだ。
抱き付いてるみたいで。――胸が、うるさい。
そのまま、少し黙ったまま、揺られていたら。
「でもオレ、奏斗のこと、ちゃんと、諦めなきゃって思ってる」
不意に言われた四ノ宮の言葉に、オレは硬直。
うるさかった胸は、急に、強張った気がした。
なんだか、キーンと耳鳴りがするみたいな感覚。……何これ。つか、今更なのに。
諦めるも何も、オレはもうとっくに断って。ずっとそのままで。もう終わったことの筈なのに。
血が冷えて。……冷たく震えそうな手にきゅ、と力を入れる。
頭の中が真っ白になる。
自分が離れようって言ったくせに。
諦めるって言われて、ショックを受けるなんて。意味が分からない。
「――――奏斗、和希と、より戻した?」
え。
和希と? 和希とよりなんか戻さないけど。
なに、言ってんだろ、と、引き続き頭の中は真っ白。
「和希に会ったって日に急に、オレに無理って言ってきたからさ。――よりを戻すつもりか、戻さなくても、やっぱり好きだって思ったのかなって。だからオレ、諦めなきゃって、思ったんだけど」
――――四ノ宮、そう、思ってたのか。
それで、あの時も、ひいてくれたのかな。
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