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第465話「優しさに」*奏斗

 ……ああ、そのこと、四ノ宮に話したかったんだ。   「……あのさ」 「ん?」 「和希とのこと……話してもいい?」 「話していいよ。つか何で聞くの? 話してダメなんてこと、ないよ」  四ノ宮に話したいなってずっと思ってたけど。でも、四ノ宮にはもう関係のないことだから話す日はこないかなって、思ってた。  だから聞いた言葉に、四ノ宮は、そんなふうに答えてくれる。  なんだかなもう。……なんか。優しくて。胸がつまるような。 「あの後、和希と会ってちゃんと話せた。謝ってもくれたし、辛かったってことも、もう平気ってことも、ちゃんと言えて……。その後、部活の皆にも会って、連絡取れなくてごめんって言ってきた。これからまた、皆と会えると思う」 「そうなんだ。あ。江川も居た?」 「うん」 「喜んでたでしょ」 「うん」 「良かったね」  ふ、と笑う四ノ宮。 「ん。……あと、ね」 「ん?」 「父さんとも、話した」 「……あ、実家に行ったの?」 「うん。恋愛対象が男ってことも、ちゃんと話して……頑張って生きてくからって言った。まだ全部は理解できないけど、見守ってくれるって」 「そうなの? すごいじゃん」  四ノ宮が驚いたみたいに。嬉しそうに答えてくれる。  ……それが、なんだか、すごく嬉しくて、オレは続ける。 「母さんがね。子供と話そうともしないなら離婚も考えるとか言ってたらしくてさ。……父さんが母さんと離婚したくないんだなってことも分かったというか……」 「はは。そうなんだ。奏斗のお母さん、いいね。真斗は? 喜んでたよね?」 「うん。……何日か、実家に泊ってきた」 「そっか。よかったね」  四ノ宮がまた、ふ、と笑う気配。 「奏斗が、ちゃんと前に進んでる感じがして、嬉しい」 「――ん……」  優しい言葉。嬉しい。  でもやっぱり、胸が痛い。  オレは、多分。  ――――四ノ宮に、ひどいことをしてる。  ……ずっと優しくしてくれて。  こんなに好きって言ってくれて。  大事に、してくれたのに。……今も、してくれてるのに。  踏み出せずに、ひどいこと、してるのに。  なんで、こんなに、優しいんだろ。  オレが泣きそう、とか、おかしいのに。  ……優しいのが、沁みる、というのか。なんだか、痛い。  涙が、出そう。 「つか、もしかして今、オレが居なくても平気って意味で、言ってたりする?」 「……そんなんじゃ、ないよ」  そんなつもりはない。四ノ宮に、ただ、話したかっただけ。  ……でも、そう聞こえるのか。  オレが選んだ「離れる」っていうのは、本当はやっぱり、こんなのも話しちゃいけないのかも。こんなの話して……良かったねって、言ってもらって。四ノ宮の優しさに、甘えてる気がする。  最後にしなきゃ。こんな、話するの。  ――――でもこれだけは言っておこう。 「……さっきの話なんだけど。和希とよりなんて戻さないよ……?」 「――――そうなの?」 .  意外そうな声音。オレが頷くと、四ノ宮は、しばらく黙った。  マンションについて、エントランスから入る。  四ノ宮って……オレが今、和希と付き合ってると、思ってたのかな……。  それって……すごく嫌なんだけど。  なんだか、内心めちゃくちゃ落ち込んでいると、四ノ宮がふと、オレを振り返った。 「奏斗、降ろして平気?」 「あ、うん」  マンションのエレベーターの前で、ゆっくり降ろされる。

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