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第466話「嫌な理由」*奏斗
「ごめん、重かったよね。ありがと」
「平気だよ。オレ力はあるから」
言いながら、開いたエレベーターに乗り込む四ノ宮。続けて乗り込んで、四ノ宮の後ろに立つ。四ノ宮が階数ボタンを押してから振り返った。
「ふらふらしない?」
「平気」
「顔赤いのもとれたかな?」
顔を見られて、「大丈夫そうだね」と笑われる。
近くで顔を見ると――――ドキ、とする。
好きな気持ちは、なかなか消えなそうだなと、もう諦めが入ってきた。このまま、諦められるまでは、心の中だけで好きでいれば、いいかな……なんて思う。
エレベーターを降りて、四ノ宮の部屋の前。
久しぶりに話せて良かったな……もう少し話したかったなと思いながら。もうついてしまったので仕方なく、じゃあね、と言いかけた時。
「あ、奏斗。おみやげ、貰ってって」
四ノ宮にそう言われた。
「え。いいよ、おみやげなんて」
「奏斗のために選んで来たんだから、それ位貰ってよ」
鍵を開けて、中に入りながら、ドアを開けてくれている。
「玄関で待ってて。すぐ持ってくるから」
仕方なく、玄関の中に足を踏み入れると、四ノ宮が靴を脱いで部屋に入っていく。少し待っていると、何やらたくさん抱えて戻ってきた。
「何その量……」
「お菓子とか、美味しかったコーヒーとか、ナッツとか、あと、いい香りのハンドクリームとか……向こうで使っててよかったもの、買ってきた」
あれこれ、次々に渡される。
「何でこんなに……いっこで、いいよ」
「だってオレずっと奏斗のこと考えてたし。これいいなーとか、食べさせたいなーとか全部買ってきた。とりあえず貰って?」
そんなこと言ったら、オレも、四ノ宮のこと考えて、おみやげ買ったっけ。でもオレはこんなには買ってないけど。買いすぎ……。
「持てないってば」
「紙袋持ってくるから、待ってて」
オレが受け取りきれなかったものを玄関マットの上に置いてから、また中に入っていく。
もう。何なの。そう思いながら、俯いてしまう。
狭い、二人きりの空間が、なんだかすごく、苦しい。
会わない間に、好きだと思い知らされて。
さっき顔を見た瞬間に、こんなに好きだったんだと思って。
さっきから四ノ宮がオレに話しくれてたことは。
すごく、嬉しいなって感じることで。
真斗が言ったみたいに。好きってただ言えたらいいのに。
そうも思うのだけれど、でもやっぱり、たくさん考えて出した結論は、変わりそうにない。
「お待たせ」
四ノ宮が戻ってきて、オレの手からお土産を受け取って、紙袋に入れていく。
「そんなにたくさんもらえないよ……」
「いいじゃん、おみやげくらい。要らなかったら捨てて」
……捨てれるわけないじゃん。
「分かった。……もらう。ありがと」
「うん」
紙袋を下に置いて、さっき置いていったおみやげも中に入れてる四ノ宮を見ていたら。
最後にこれだけ言いたいな、と思って、オレは口を開いた。
「あのさ、四ノ宮」
「ん?」
「オレ、和希のこと、そういう意味で好きじゃないよ」
「――――」
「その勘違いは、ちょっと嫌、かも……」
これだけ言って帰ろう、と思って。
だって、すごくすごく、嫌だったから。この先もずっと、オレが和希を好きって、四ノ宮に思われていたくなかったから。
そう言った。
「――――それ、何で嫌なの?」
四ノ宮が、下を向いたままそう言った。
……何で嫌か。何で……?
「……誤解、だから?」
「別にいいじゃん。オレが誤解してようが。奏斗にはもう関係ないでしょ」
「そう、だけど」
「奏斗が和希を好きでも、だれを好きでも、オレにも関係ないよね?」
その言葉に、何も返せず、詰まる。
確かにそう、だけど。
そう、なんだけど。
だって、四ノ宮に、そう思われていたくなかったから。
でも……そっか、これ、言っちゃダメなやつか。
「そう、だよね。今の言わなくて良かったかも。ごめん」
関係ない、と言われた言葉が、何だか心に突き刺さって。
涙が出そうなんだけど、なんとか堪える。
……泣かない、絶対。オレが、これを選んだんだから。泣く権利なんかないし、四ノ宮にバレる。
静かに息を吸う。
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