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第467話「最後に」*奏斗

「……はい」  四ノ宮から紙袋を手渡される。 「ありがと。……じゃ、オレ、帰るね」  四ノ宮を見ずに立ち去ろうとした瞬間。腕を掴まれて、引かれた。 「ごめん、もう一つ、持って帰ってほしいものがあった」 「もう、いいよ」 「そっちの方が絶対なんだ。待ってて」 「――――」  もうおみやげなんか、いらないのに。  四ノ宮の思い出が残るものなんか、オレの家に増やしたくない。捨てられそうにないし、見るたび、辛くなるに決まって――……。 「――――」  部屋から現れた四ノ宮が持ってきたものに、オレは何も考えられなくなって、立ち尽くした。 「欲しいって言ってたでしょ」  近づいてきた四ノ宮から差し出されて、ぽふ、と腕の中に入ってきた二号。  柔らかい。気持ちいい。久しぶりに、抱いた。  自然と、ぎゅ、と抱き締めてしまう。  優しい感触に、四ノ宮と過ごしてた日々が、浮かぶ。  一人で座るなら、二号抱いてな、とか。  ベッドで二号抱くなって、意味わかんないヤキモチをやかれたり  四ノ宮と二号が似てて、可愛かったり。  二号をぎゅ、と抱き締める。 「可愛がってあげて」  ああオレ。  ずっと我慢、できてたのに。  抱き締めた感触に、抑えてた感情がぶわっと沸いてくるみたいで。……唇を嚙みしめる。 「奏斗あのさ」 「――――」 「さっきごめん。関係ない、とか。ちょっと嫌な言い方した」  ごめんね、ともう一度言われて、二号を抱き締めたまま、首を振る。    どうしよう。  ……オレ、四ノ宮が好きだ。  好きだけど……。  でも、オレとじゃ――――。 「……いら、ない」 「え?」 「欲しくない」  四ノ宮に押し付けて帰ろうとしたのに、また腕を掴まれた。 「二号って名前が嫌なら、違う名前にしてくれてもいいから」  何言ってんの、意味わかんない。  泣きそうなんだから、これ以上、やめてよ。 「四ノ宮が勝手に買ったんじゃん、オレ、いらないから」 「そうだけど、気に入ってたじゃん。持って帰って」 「いらない」 「欲しいって言ってたよね? なんなんだよ……置いてかれると、オレ、困る」 「何で困るんだよ」 「これ見ると、奏斗を思い出すから無理。持って帰って」 「――――っ」  そんなのオレだって。  ……ていうか、オレの方が……。  じわ、と涙が滲みそうになる。  でも、絶対、泣かない。息を、止める。 「……分かった。持って帰る、から」  腕の中に二号を再び入れると、四ノ宮の手が、オレの腕から離れた。   少しの沈黙の後、四ノ宮が、言った。 「オレ、諦めるから。いつかは」 「――――」 「迷惑はかけない。……家も、引っ越すつもりだから」  オレは、二号の端を握り締めて、辛うじて、頷いた。  オレも。……いつかは、諦めなきゃ。  確かに、隣に居たら、色々お互い気まずいだろうし。  そう思うんだけれど、どうしても、苦しい、みたいで。  ……本当に四ノ宮と離れるんだな、て思ったら。  じゃあ最後に、オレが言いたいことはなんだろ……。  オレは、頭に浮かんだことを、二号に顔を埋めたまま、話し始めた。 「……オレ、四ノ宮と居られて、良かった。なのに、ごめんね、オレのことなんか、好きって言ってくれたのに」  そう言ったら、四ノ宮は、はー、とため息をついた。 「なんか、じゃないし」 「え?」 「オレのことなんか、って、言うなよ」  ふ、と見上げると。なんだかすごく、怒ったみたいな顔。 「オレ、奏斗が大好きだけど、そこは嫌だ」 「――――」 「オレのことなんかって思うの、ほんと直して」 「……ぅん」 「心配なんだよ。そういうとこ。何でそんな、可愛いし、人良いし、皆にも好かれてんのに、オレなんかって言うの? だからほっとけないって思うんじゃん」  何も。  返事が出来ない。  四ノ宮は、少しため息をつきながら、続ける。 「奏斗がそんなだから、オレがめちゃくちゃ可愛がって、大事にして、そういうの言わなくさせたいって思っちゃうんだろ。もう、今すぐ、そこ直してよ」 「――――」 「あと、気になってるから最後に言うけど……今までいろんな奴と寝てたのは、別に汚点とかじゃないからね。浮気したとかでもないし、別に、しちゃだめなことじゃない。奏斗は、汚くなんかない。ていうか、めちゃくちゃ綺麗だし、可愛いから。二度と、そんなこと、言っても、思っても、だめだからね」  怒ってたみたいな顔が、だんだん、優しくなって。 「分かった?」  返事もできずに、ただじっと見上げていたオレを見つめて、ふ、と笑う。

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