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第468話「初めての」*奏斗

「……うん。……ありがと」  どうしよう。  オレ、四ノ宮が好きでしょうがない。  でもやっぱり、四ノ宮を好きになる人は、他にもいっぱいいるだろうし。オレより、四ノ宮を幸せにできる人は、居ると思う、し。   「奏斗、ごめん、引き止めて。また……ゼミで、かな」  ふ、と微笑む四ノ宮。その言葉に気づく。  ……そうだ。帰らないと。 「……うん」  なんとか頷いて、帰ろうと、ドアの方を向いた。その時。 「雪谷先輩」 「――――え」  久しぶりの呼び方に、振り返る。 「次は、そう呼ぶから」  四ノ宮は、そう言って苦笑すると、バイバイ、と手を振った。うん、と頷いて、オレはまた、ドアの方を向いた。  胸が痛すぎて、辛すぎるけど。  ……でも、これで、良いんだと思う。  だって、オレ。  四ノ宮に幸せになってほしい。 「四ノ宮」 「うん?」 「ありがと……あの――――オレね」 「ん?」  顔を見たら泣きそうだから。  ドアの方を見て。二号を抱き締めながら。 「四ノ宮が……ずっと幸せでいてくれたらいいなって、思ってる」  なんだかまともに頭が働かない、真っ白な世界の中で。二号を抱き締めたまま、思ったことをそのまま伝えた。  うん、て言ってくれたら、帰ろうと思った。  けど。四ノ宮、返事をしてくれない。しばらく黙ったままで。どうしようと思った時、不意に。「あーもう」と、大きなため息をつかれてしまって、咄嗟に四ノ宮を振り返った。  少し俯いてる四ノ宮が、目に映る。 「――――つか……」  声が震えた気がして、四ノ宮を見上げたら。  四ノ宮は、ふ、とオレから顔を背けて、口元を抑えて、少し俯いた。 「――――はは。もう……意味わかんないな……」  笑ってるみたい、だけど。  声が。  震えてる。 「四ノ宮……?」 「オレ、奏斗が居ないと、幸せじゃないけどね。……分かんない、かな……」  は、と吐く息も、震えてて。 「奏斗と居たのは、ほんと短い間だったけど……一生居たいと思うくらい、好きだし。オレが幸せにしたいのは、奏斗だし」 「――――」 「……奏斗が居ないと、幸せじゃないのに、幸せでとか……言わないでよ」  視線を逸らされて、そんな風に、絞り出すみたいな涙声で言われて。  二号の端をきつく、握り締めた。 「……は。カッコわる……ごめん、奏斗。帰っていいよ」    初めて見た、四ノ宮の、涙。  ……こないだ、ここから帰った後も、思った。  こんな顔、させたくないのに、って。 「――――」  四ノ宮とずっと一緒にいるという、覚悟。  どうやってもできないと思ってたのに――――。 「しのみや……」  オレは、抱えていた二号と、おみやげの袋を玄関に置いた。   そのまま、四ノ宮の腕を引いて、見上げる。  四ノ宮の驚いたみたいな、涙の潤んだ瞳を間近で見たら、我慢、できなくて。 「奏斗、どうし――」  オレは、四ノ宮の肩に触れて顔を寄せると、四ノ宮の唇に、唇を重ねさせた。  触れたまま、四ノ宮の少し大きくなった瞳を見つめる。  ……あんなにたくさん、キスしてたけど。  オレが自分から、キスしたのは、これが初めてかも。  鼓動が、速くなる。  四ノ宮のことが好きだって、めちゃくちゃ、思ってしまった。

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