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第469話「見つめ合うと」*奏斗
唇を離して、そのまま、見つめ合う。
「かなと……?」
「……あの」
言うのに、ものすごく、躊躇う。
ほんとにいいのかなって、まだ思ってるけど。
でも、その気持ちよりも、今はもう、言いたい気持ちの方が強い。
「オレ、四ノ宮と、ずっと居てもいい?」
「――――」
驚いた顔をされて、思わず俯く。
どうしよう。これ、言っていいんだろうか。……でも。
四ノ宮に言いたい。
「……いっぱい、気になることあるけど、オレ、この世で一番、四ノ宮に泣いてほしくない。……笑っててほしい」
「――――」
「四ノ宮が幸せになれないなら、離れたくない。……四ノ宮が、オレと居て幸せなら、オレ、お前と居たい」
俯いたまま、全部一気に言い尽くすと。
四ノ宮が、ちょっと顔見せて、とオレの顔に触れて、上げさせた。
見つめ合っていると、浮かんできてしまうのは、ずっと気になっていた、オレには絶対してあげられないことばかり。
それを、オレは、言ってみることにした。
「オレとじゃ、普通の幸せは無理だと思う。結婚して、子供とか、そういうの。……潤くん、すごい可愛くて……四ノ宮に似てて――――オレじゃ、そういう幸せはあげられないんだけど……」
「――――」
「……それでも、いい? ……ってよくはない、と思うんだけど……」
ああもうすでに何言ってるか良く分からない。
どうしたいんだ、オレ。
そう思った瞬間。
「それはさ、奏斗」
ぐ、と、二の腕を掴まれる。四ノ宮が眉を寄せて、オレをまっすぐに見つめてくる。
「それは、オレだってそうだよ。オレと付き合ったら、そういうのはしてあげられない」
「でも、四ノ宮は、もともとは」
「もともとどうとか関係ない。オレ達、お互い、それはあげられないってのは分かってる」
「――――」
「それでも、オレは、奏斗に好きって言ってる。奏斗と居たい」
まっすぐな、四ノ宮の瞳。
じっと、その瞳を見てたら、オレが持ってる、強い不安の意味が突然分かった。視線を落として、一度唇を噛みしめた。
それからゆっくり四ノ宮を見上げて、唇を解く。
「……オレ、四ノ宮と住む世界が違うとか色々思うし……四ノ宮は、オレと離れた方が幸せかもって、思う気持ちもあるし……言ってたこと全部に、嘘は、ないんだけど……」
そこまで言って、少し、黙って、考える。
四ノ宮が、そっとオレの頬に触れた。促されるみたいな優しいその触れ方と瞳に、ふ、と心の中の頑なな気持ちが溶けるみたいで。
何を言っても、四ノ宮なら聞いてくれる気が、して。
ちゃんと言いたいって、思った。
「でも……オレ、まだ、トラウマも、あったんだと思う」
もう一度唇を噛んで、それから、まっすぐ、四ノ宮を見つめた。
「……いつかまた、男じゃ無理って……四ノ宮にも言われるのが怖いって気持ちがあったのかも」
「――――」
「それで、離れようって言った、のかも……って……今、なんか急にそう思った……」
黙ったまま、じっとオレを見つめる四ノ宮。
今までどんな時も、ずっと、オレをまっすぐ見つめてくれてた瞳。
最後に別れた時、初めて逸らされて。すごくすごく、胸が痛かった。
「……ごめん、四ノ宮」
オレは、四ノ宮を、見つめた。
数秒見つめ合って――――四ノ宮は、ふっと瞳を緩めた。
「ごめんって何? ……何で謝るの?」
「いつか、無理ってお前に言われるの怖くて、逃げたんだと思う、から……ごめん」
そう言うと、四ノ宮は、ん……と考えて、オレを見つめた。
「……大丈夫だよ」
「……?」
「オレと居れば、そのトラウマ、絶対なくなるから」
四ノ宮は、ふ、と笑って、そんな風に言う。
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