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第470話「愛しい」*奏斗

「ありがと……」    その言葉を言ってくれる、四ノ宮のことは、好きだと思う。  でも。 「でもね、その、怖かったのは……あの時のオレで……」 「……ん」 「……今、考えると、少し違う風に思えてる、かも」 「うん」 「付き合ったら、別れることはあるかもしれないけど……でも別れてもオレ、前みたいにはならないと思う。怖がって一人でいるより、離れようってならないように……大事にしたいって、思う」  オレは、四ノ宮を見上げて、右手で、その頬に触れた。   「四ノ宮のこと、今……オレが、幸せにしたいって――――思っちゃってるんだけど……いい?」  最後の方は、少し……いや、かなり、勢いが落ちながら、言ったら。  ふ、と四ノ宮が笑った。 「いいに決まってるし。――――言ったよね。オレ、奏斗が笑っててくれれば、幸せだって」  嬉しそうに笑う四ノ宮。  久しぶりに見た気がする、全開の笑顔に、胸がきゅ、と締め付けられる。 「奏斗」  四ノ宮はオレを腕の中に引き入れて、抱き締めた。 「奏斗がオレを、幸せにしてくれるの?」  触れてしまいそうなくらい至近距離で、じっと、見つめられる。 「――――……」  これに頷いたら。今までの、離れる決意とか、馬鹿みたいに無駄になるし。  四ノ宮の、「普通の幸せ」は、やっぱり叶えてあげられないし。  オレだって、あんな、世界の違うところに入ってくには、相当、覚悟がいるわけだし。   ……でも。  さっきの泣き顔とは打って変わって、すごく嬉しそうに、オレを見つめて笑う四ノ宮の顔。   愛しいって、思ってしまう。  ……ていうか、いつからかずっと、そう思ってたのかもしれない。気持ちに、気付かないように、してきただけで。  ドキッてしたり。可愛いって思ったり。  ずっと。愛しかったのかも。 「うん。する。……幸せに、したい」  言った瞬間、重なってきた唇。  何度か触れては離れて。  見つめ合ったまま。  鼓動がどんどん速くなって。  体温が、あがってく感じ。 「……っふ……」  柔らかいキスでしかないのに、少し震えて声が漏れた。きゅ、と瞳を閉じると。 「奏斗」  笑みまじりの声で、四ノ宮に呼ばれる。瞳を開けると、まっすぐ見つめてくる瞳が、優しく緩んで。 「……奏斗」  嬉しそうに呼ばれて。胸がきゅう、となった瞬間、ゆっくりキスされる。  舌がオレの舌に触れると、いきなり深く絡んできて、また、ぎゅ、と瞳を閉じる。 「……っん、ふ……」  ――――……四ノ宮のキス、だ。  嬉しくて。  涙が、滲む。 「……奏斗」  は、と熱い息が漏れる、その唇の間で、四ノ宮がオレの名前を囁く。 「……っ、ん……」  見上げて、視線が絡むと。  胸が。苦しい。  ――――しばらくキスされて、それから、ゆっくりと唇が離れた。 「奏斗……」  四ノ宮の手が、オレの頬にかかる。至近距離で、まっすぐ見つめられる。 「他の難しいことは全部どうにかするから。家がとか、この先がとか、全部なしで……今、オレのこと、好き?」  そんな風に聞かれて、何度か瞬きをして、四ノ宮を見つめる。 「うん。――――……大好き」  ……やっと、言えた、言葉。  胸が詰まって、自分で言った言葉に、なんか苦しい。  見つめ合って数秒。四ノ宮は、ぎゅっと瞳を閉じた。と思ったら、そのまま、四ノ宮の頭が、オレの肩にぽふっと沈む。 「……超、嬉しいんだけど」 「――――」 「……嬉しくて死にそうとか……ほんとに思うんだね」  ……ていうか、オレは、そんなことを言う四ノ宮が可愛くて。愛しくて。  もうなんだか、胸が痛くて。  でも、幸せで。  ――――……オレも、死にそう。

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