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第473話「推し」*奏斗

 四ノ宮は頬をすり、と撫でて、じっと見つめてくる。 「これ、ほんとに嫌味じゃないけど……わりと経験はあるのに、なんでそんなに反応がウブなんだろね、奏斗って」 「オレで遊ばないでよ」 「だって可愛いんだもん」  オレの手からタオルを受け取ると、髪を優しくわしゃわしゃしてくれる。最後に、顔を覗き込まれて、ふ、と笑われる。 「まあ、あれだよね。セックスだけしてた時は、こんな反応してなかったでしょ」 「――――ぅん」  確かに、赤面するとか、無かった気がする。  なんていうか……それだけのために会ってる人で、恥ずかしいとかもないし、ときめくとかも、なかったし。むしろ、心の中は冷静だったというか。 「オレも、遊んでただけの時は、こんなに可愛いとかそういうの思えなかったから、多分一緒だね」  オレの髪を拭いたタオルもかごに放り、四ノ宮は、ちゅ、と頬にキスをしてきた。 「気持ちが無いセックスは、もうしない。オレも、奏斗もね?」 「うん」 「過去のことはもう忘れちゃおうね。オレが遊んでたのもどっか遠くに捨てて?」  苦笑いの四ノ宮を見上げて、オレも微笑んで、ん、と頷いた。 「水持って、ベッド行こ。部屋、そろそろ冷えてるだろうから」  Tシャツが大きいとはいえ、それしか着てないので、それを考えるとものすごく恥ずかしいけど、とりあえず手を引かれるままキッチンについていく。水のペットボトルを一本渡されて、四ノ宮も一本持って、また寝室に向かって歩き始めた。 「……そのカッコ、死ぬほど可愛い」  四ノ宮に振り返られてそう言われて、かあっと赤くなりながら、「オレは死ぬほど恥ずかしいけど」と答えたら、ははっ、と笑われた。  寝室はもう涼しくなっていた。  ……ここに入るの、久しぶり。少し緊張しながら、ベッドに並んで座ってペットボトルの蓋を開けた。  さっき、バスルームに行った時の四ノ宮だと、もう即、シようって感じだったのに、ちょっと落ち着いたのかな? と思いながら、水を口に含む。  オレの方はさっきから、めちゃくちゃ心臓が痛いような。鼓動が早すぎて、もう上半身裸の四ノ宮にドキドキが抑えられない位、なのだけど。 「奏斗、少し気になること、話していい?」 「え? あ、うん」  気になること?  オレは頷きながら、隣の四ノ宮を見つめた。 「タイミング的に、和希とより戻したいのかなって思ったから、オレ、諦めようと思ったんだけど。……違ったなら何であの時だったの?」 「……ごめん。あの、違くって……偶然和希に会って、オレ、最初は固まってたんだけど……四ノ宮が頭に浮かんできて、さ。大丈夫ってよく言ってくれる声が聞こえた気がして」 「うん」 「そしたら、なんか平気になって……普通に和希と、話せたの。そしたら、それを見てた真斗に、好きな人でもできたの? て聞かれて……その時、オレ、四ノ宮が好きなのかもって、気付いた、というか……」  そう言うと、四ノ宮は少し考えてから、首を傾げた。 「そこで気づいたなら、何でそのままオレに好きって言わずに、離れる結論に直行すんの?」 「……だから……離れた方が」 「ああ。……オレのためってやつに繋がるのか……」  なるほど、と呟いてから、四ノ宮は苦笑いを浮かべて、オレを見つめてくる。 「奏斗のそこら辺の思考って、ほんとネガティブだよね……そこはこれから直そうね。まあ、オレと居れば直ると思うし」  何やら自信満々で笑いながら言って、四ノ宮はオレを見つめる。 「うん。……直す。そういえば、真斗にもいっぱい言われた。カナはめんどくさいって」 「そうなの?」  四ノ宮が、クスクス笑う。 「……真斗は、四ノ宮推し、らしいよ」 「そうなんだ。嬉しいな……ていうか、うちの家族も皆、奏斗推しだから」  そう言って、潤だけは別の意味で奏斗推しだけど、と可笑しそうに笑う。 「奏斗と居られるなら、オレも、なんだって頑張るつもりだけど……一番近い人たちは賛成してくれそうな気がする」  微笑みながら、四ノ宮が手を頬に触れさせてくる。 「覚えといて。オレにとっては、奏斗と居ることが最優先事項だから。その他のことは、どうにでも、なんとでも、するから」 「――――うん。オレも……頑張る」  頷きながら見つめ返すと、ちゅ、と唇にキスをされる。

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