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番外編【諦めるか否か】大翔side 2

 仕方なく、家族旅行についてきた。  日本とは違う空。空気。海も見えるが、別荘にプールがある。あまり出歩かず、そこで数日、過ごしていた。他の家族は、色々出かけているけれど。  奏斗に絶対に会えない環境が、良いような、悪いような。  もう考えつくして嫌になって、ぼーっと青すぎる空を眺める。 「ただいまー大翔、お昼、買ってきたよ」  姉貴は毎日買い物ばっかで、ご機嫌。呼ばれて、皆で座れる大きなテーブルに座る。  そんなに喋らないオレの膝に、潤がしょっちゅう乗っかってくる。  ……こいつ、オレの機嫌が最悪なの、分かんねえのかな。と思っていたのだけれど、どかすのもどうかと思って、好きにさせている。  家族プラス葛城が居る、円卓でのランチの時。潤が、トイレ―と騒ぎながら、オレの膝から離れた時。 「……潤は優しい子だからねー。ご機嫌斜めの人とか、体調悪い人に敏感でね。側に居てあげるんだよ。いい子でしょ?」  と、姉貴が笑った。  ……三分の一くらいしか身長無い甥っ子に、慰められてたのか。  はーとため息をついた。 「それで? もう、一個しか思い浮かばないんだけど。ユキくんに、振られたの?」  姉貴のセリフに、家族全員と葛城がオレを見た。ちなみに、こっちに居る時の葛城は、執事というよりは、一緒に旅行を楽しんでる感じ。食事の用意も現地の手伝いの人がやってくれるので、一緒に食事したり、色々体験して遊んだりもする。まあでも、色んな手続きをしたり、車の運転とかは葛城がしてくれてるが。  今は、全員で食卓を囲んでたので。  ほんと、一斉に全員が、オレを見た。  ……はー。 「そーだよ。……だから来たくなかったのに」  そう言うと、親父は、はは、と笑った。 「なんだ、そんなことだったのか」  というセリフに、「……そんなことじゃねーし」と言い返す。 「え、ユキくんって、もしかして、パーティーに来てくれたあの子??」  母さんは、気付いてなかったらしい。  ……この人だけだな、気付いてなかったの。  潤ですら、なんか、こう言葉にならないとこで気づいてるっぽいしな。オレと奏斗を取り合おうとしていた気がするし。 「そうなのー?? え、振られたって、大翔、好きだったの?」 「お母さんだけかも、知らないの」  姉貴がクスクス笑って、そんなことを言う。  教えてくたれら良かったのに、と母さんがちょっとムッとしてる。 「あっ、もしうまくいったら――――……あんなに可愛い息子ができるの?」  どういう思考回路でそうなるのか、謎すぎる。  ……今オレ、振られたって言ったよな? 「ねー、私もユキくんみたいな弟が居たら、超可愛く着飾らせて、デートしたいーなんでもほしいもの買ってあげちゃうわ」 「いいね、母さんも行くわー」  ……だから。  この人達は一体。 「だから……オレは、本気で告白したけど、結局は、振られたの。聞いてる? 話」  眉を顰めてそう言うと、親父がオレを見た。 「普通じゃない恋をしといて、一回振られたくらいで諦めるのか?」 「――――……」 「……そんなもんだったってことか」  ……ムッかつくなー。  そんなもんじゃないから。……これ以上無理にいけないし。奏斗を苦しめたくはないし。しつこくもできない。  そんなもんどころじゃ、ねえし。  オレ、この世の誰より、奏斗を好きな気持ちは、強いって思ってるくらいだし。あんなに何してても可愛くて、何言ってても愛しくて、心配で、守りたくて――――……笑っててほしい人、いないし。 「……すげえ好きだったけど。振られたんだよ。これ以上いけない」  そう言うと。 「一度振られた位で諦められるなら、それはそれでいいと思う」  親父の言葉。  ……く。すげームカつく。 「むしろ好きだから、いけないんだって……」  ……はー。オレは家族の前で何言ってんだか。  視線を落とした時。ふと、気になった。 「……諦めた方が嬉しいんじゃねーの。そしたら見合いとかして、いいとこの誰かと結婚できるじゃん。男とそーなるより、いいだろ。つか、ずっとそう言ってきたじゃんか」  そう言ったオレに、「大翔」と母さんが言う。珍しく、ちょっと、落ち着いた声で。 「お母さんがお父さんと結婚して、幸せすぎたから、お見合いもいいよって言ってきたけど」 「そこの惚気、いる?」  姉貴がツッコんでいる。マジで。そう思ったが。 「いるわよねぇ、お父さん」 「ん。そうだね」  見つめ合ってるラブラブな父母からは、目を逸らし、ため息をついていると。 「そうそう。なんだっけ。ええと……」 「お見合いもいいって言ってきたけど?」  親父の助け舟に、そうそう、と母さんは笑顔。 「そう、言ってきたけど、大翔が、自分で好きな人を見つけてくるなら。その子が、大翔を任せていいと思える子なら。全然いいのよ」 「――――……男でも?」 「男とか女とか、関係ないでしょ。愛情がすべてよ」  ――――……。  なんかオレ、初めて、この人のこと、すごいと思ったかもしれない。  愛にふわふわ生きてるとは思っていたけれど。  お花畑みたいなお嬢様だと思っていたけれど。  今までちょっと、ごめん。  愛がすべて、というポリシーの強さが、なんか計り知れない。

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