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番外編【諦めるか否か】大翔side 3

「……親父は、反対しない?」  オレが聞くと、ふ、と親父は静かに笑う。   「雪谷くんといると、大翔がなんだか素直で楽しそうだったからなー?」 「――……」  ……オレ、親父の前でもそんなだっけ。  言葉に詰まってしまう。 「雪谷くんには言っといた――大翔に好きな人がいるって見合いを断られたことと……大翔が本気で、相手の子も本気なら認めようかなと思ってるって」  母さんがびっくりした顔で親父を見つめた。 「あ、私、それ聞いてたよね? パーティの時でしょう?」 「ああ、その時」 「あの時、そんな意味で言ってたの? 私、そんなの当たり前じゃないって、言っちゃったね」 「いいんだ、それで。当たり前だから」 「……そんな意味だったんだ。素敵」  母さんが親父を見つめて、ふふ、と笑顔。  ……隙があれば、子の前でもいちゃつくからな……。 「……葛城は? どう思う?」  一言も言わず、静かな笑みを浮かべてる葛城に視線を移すと。 「ご家族の意見が一致してるので、私が言うことはないのですが」 「……どう思うか聞きたい」  オレがそう言うと。 「……側に居るだけで自分を出せて安らげるとか、そういう出会いはめったにないと思うんですよ。貴重です。――……特に大翔さんみたいな方には、余計貴重だと思います」 「……何、オレみたいって」 「……変に悟っていて、人を、ほそーい目で値踏みするような感じで見て、適当に合わせとけば楽だからいいや、というような感じの方は」  葛城の言葉に、家族は皆、クスクス笑う。 「今までずっと大翔さんを見てきましたが。雪谷さんと居る大翔さんが、私は一番、好きですね。人間らしいです」 「……はは。今までのオレ、なんな訳」  ため息をついて、俯いた時。潤がトイレから帰ってきた。 「あー!! ヒロくん、元気になった?」  笑顔の潤が、オレの膝の上に、よいしょ、と登ってくる。  満面の笑みに、オレは苦笑しながらも、少し頷いて、無邪気な笑顔の潤の頭を、くしゃくしゃに撫でた。  ……こんなちびっこいのに、心配されて。元気になったとか、ほっとされて。何してんだか……。 「――潤、海行くか?」  ここに来てからずっと、「ヒロくん海行こうよー」と誘われてたから、そう言った。ぱっとオレを見上げて、「うん!」と笑う。  やったー、と喜んでる潤を見て、皆が、良かったねーとクスクス笑っていた時。 「ねー、ヒロくん」 「ん?」  とりあえず、何かちゃんと食おう、と、サンドイッチを手に取ったオレを見上げて、潤が、むぅ、と唇を尖らす。 「どした?」 「……ユキくんも来ればよかったのにー」 「――――……」 「ちゃんと来てってゆった?」 「――――……あー、忘れたかも」  オレが言うと、周りは苦笑してる。 「えー!もー!! だめじゃん、ヒロくんー!」  ぷー、とふくれてる潤に、姉貴が笑いながら。 「ユキくんは家族じゃないからねー。これは、家族の旅行だから今回はしょうがないかな」  助け船を出してくれた姉貴に、んー、と考える潤。 「えー……あ、じゃあ」  じゃあ??  皆が、不思議そうに潤を見た。もちろんオレも。 「潤がユキくんと結婚すれば家族だねっ」 「――――……」  皆がもうクスクス笑いを超えて、あはは、と笑い出した中。 「つかお前、意味分かってんの? すげーな」 「パパとママが結婚して家族だから!」  ……おお。意外とちゃんと分かって言ってる。……って。おい。とツッコミを入れたい。 「結婚するなら、オレがするから」  思わずオレが言うと、潤は、むむ、と眉を寄せる。 「ダメだよー、結婚は好きな人とするんだから!」 「……潤は、奏斗が好きなのか?」 「うん!! ユキくん、優しい! あとあと、可愛いしカッコいい~」 「……つか、ダメ。奏斗はオレのだし」 「えーもうーヒロくん、やだー!」  ぷんぷんと怒った顔で膨らんでる潤。  皆はもう、可笑しくてしょうがないと言った感じで笑ってる。  ――――……奏斗はオレのだし。  ……バカみたいに、甥っこに言った自分の言葉。  奏斗は、オレの。  ……ああ。なんか……やっぱり、ダメだな。  すげー好きだし。  ……オレの、腕の中に、居てほしい。  優しくして、可愛がって、照れたみたいに笑わせたり、可笑しくてしょうがないって顔で、笑わせたい。 「何回もプロポーズして、結婚したって人も知ってるよ」  姉貴が不意に言って、オレを見て笑う。 「誰かと結婚したって訳じゃないんでしょ」 「……ないけど」 「じゃあまだ、諦めるの、早くない?」  ……でもな。  それって、男女の話だろ。  男同士で。無理だって言われた人に、何回も迫るって。  …………ちがうか。  それこそ、男とか、女とか、関係ないのか。  奏斗が和希と、付き合ってるなら、どうしようもないかもしれないけど。  ……付き合ってないなら。……てか。付き合ってても。  好きなのは、変わらない。  そこまで考えた時、潤がオレをまっすぐな瞳で見つめた。 「ユキくんは、潤のだもん」 「……はー??」 「潤のお兄ちゃんだからね!!」  ……お兄ちゃん。 「お兄ちゃんとは結婚しないだろ?」 「えー……」  そうなの? みたいな顔で首を傾げてから。 「でも潤のだからね? ねっ?」  じーっと見つめてくる潤に苦笑いしつつ。 「だめ。あげないし」  と言うと、「ままー!」と潤が姉貴のところに逃げて行った。 「もーやーねー本気になってー? しょうがない、おじちゃんですねぇ」  姉貴がそんなことを言って、クスクス笑う。

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