494 / 542

番外編【諦めるか否か】大翔side 5

 今日は潤と姉貴と母さんと一緒にショッピングモールにやってきた。親父と葛城は、何か仕事があるらしい。  ――これ綺麗だな。青い石のストラップ。  凝りもせず、奏斗のことを思い出しながら眺めていると。 「わーそれ綺麗ー」  潤がオレの手元を覗き込んで、笑顔でそう言った。 「ヒロくんの?」 「……おみやげかな」 「誰に―?」 「好きな人」  ふ、と笑いながらそう答えたら、「誰?」と潤がオレを見上げてくる。 「ユキくん?」  続けて、当たり前のように聞いてくる潤に苦笑していると、隣にいた姉貴がクスクス笑いだした。 「何でユキくんが最初にくるんだ?」 「潤も、ユキくん、好きだから……」 「でもママが一番なんだろ?」  そう言うと、姉貴が「あらそうなの?」と笑う。 「うん。ママが一番だけど。ユキくん、好き」 「潤って、友達とかに好きな子は居るのか?」 「えーいるよー! ねー、ママ」 「うん。居るよね」 「居るけど……ユキくんが、にこってするの、好き」 「――――……」  小さな甥っ子を、ちょっとマジマジと見てしまった。 「お前、見る目、あるな?」  小さな頭をよしよしと撫でると、「みるめって?」と聞いてくる。 「んー。奏斗は、可愛いよなーってこと」 「うん。大好き」 「潤は、奏斗に、二回しか会ってないのにな?」  そう言って、じっと見つめると、ふふ、と潤が微笑んだ。 「これからいっぱい会いたいー。あっ潤もユキくんにおみやげ買う―」  わーいと、綺麗なストラップの商品が並ぶところに、とことこ小走りで寄っていく。その後ろ姿を見送って笑っていると、姉貴がオレを見つめた。 「ちょっと吹っ切れた? とか?」 「……どうだろ。振られたのはもう、振られてるし。迫っていいかも分かんねえけど」 「けど?」 「――――……会いたいから、会いに行く」  もうその気持ちしかないかも。  会ってどうするかなんてまだ分からない。  ……和希と付き合ってるかは、聞くかも。それによって、自分の動きは決まるかもしれない。でも分からない。和希と付き合って無くても、オレとは無いって思うことだって、あるだろう。  だけど。会いたい。 「ユキくんは……大翔のこと、嫌いだとは思わないよ」 「――――……」  黙ったまま、姉貴に視線を向ける。 「……もともとゲイじゃない大翔が、お見合いとかの話までしてるいいとこのお坊ちゃんでしょ。いくらお父さんが、認めてもいいなんて言ったって、そんなとこに平気で飛び込んでくるタイプには、絶対見えない」 「――――……」 「振られたって、そういうことなんじゃないの」  分からない。  そうかもしれないし、そうじゃないかも。  ……にしても。 「姉貴だって、奏斗に会ったの、二回じゃんか」 「え?」 「……何でそんな――――……核心ポイとこ、ついてくるわけ」  そう言うと、姉貴はクスクス笑い出した。 「ほんと怖わ……」 「……失礼な」  苦笑の姉貴に、ふ、と息をついたその時。 「ねーヒロくん!! これにするー」  綺麗なオレンジ色の石がついたストラップを、小さい手に握りしめて、潤がオレのところに駆け寄ってくる。 「喜ぶかなあ」 「ん。喜ぶよ」 「ほんとー?」 「絶対喜ぶって」  ふ、と笑って言うと、潤はニコニコ嬉しそう。  潤に言ったようで、実は自分に言ってる感覚。    会って、話して、お土産とか渡せるような感じで、話せたらいいけど。  そんな風に思う。 「わー素敵。ユキくん、喜ぶね」 「うん!」  無邪気な笑顔に、大分救われる。  その時。  スマホが震えた。メールの着信音。 「――――……」  何気なく見たそれは、椿先生からの連絡だった。  夏休み、一度集まりませんか、と。  日程は……早めに帰ればなんとか間に合うかな、という日付だった。  ここに行けば、とりあえず、変な感じでなく、自然と会えるだろうか。  ……奏斗は、来るだろうか。  強制じゃないし、帰省してないなら、という緩い誘いだ。  オレが来るかもしれないところに、来ないかもしれない。  でも。  ……来るかも、しれない。

ともだちにシェアしよう!