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番外編【諦めるか否か】大翔side 6
その夜。皆が寝静まると、一人でベランダに出た。丸いテーブルにスマホを置いて、椅子に座って背もたれに寄りかかって、ぼーっと月を見上げる。
デカいなー、月……。
目の前の静かな海が、月の光を反射させて、揺らめいている。
綺麗だな。
――奏斗と月を見上げながら歩いたこと、あったな。
もうずいぶん前のことな気がする。
でも実は、そんなに経ってないんだよな……。
短期間で急接近して、どんどん惹かれて。
一生一緒に居たいとか……盛り上がりすぎか……?
まだ、大学一年。社会人になったら環境変わるだろうし。もっといろんな人に、会う、か。
そこに、奏斗より好きになれる奴、居るかな。
――――大体、さ。奏斗なんて……。
自己肯定感低すぎて、めんどくさいし。
……和希のこと、好きすぎだし。過去にとらわれすぎだし。
奏斗と付き合うってことは、オレも、ゲイ、てことになっちまうし。
女と結婚して家族を作って……親父と母さんみたいに、子を繋げていく。そんな未来は、奏斗とは、選べないし。
……つか。そもそも、振られてるし。
「――――」
そこまで考えて――――ふ、と笑ってしまった。
「……ほんと……めんどくさいなぁ……」
そう言う自分の声は、笑いを含んでる。
――――もう分かってるから。
面倒くさくても、誰かと比べてデメリットが多くても、振られてても。
奏斗が、好きだってこと。
顔を思い浮かべると、自然と微笑む。
笑顔が見たい。その頬に触れたい。抱き締めていたい。
ずっと。
奏斗が生きてく側に居たい。
助けあって、笑い合って、生きていきたい。
これから先、出会う誰かじゃなくて。
奏斗と、ずっと、一緒に。
「……すげーな、月。……でっけー……」
奏斗に見せたい。
何て言うかな。
あの時、月が何かを食べすぎたからでかくなったんじゃないかとか、適当なこと言ったら、楽しそうに笑ってたっけ。
あれから、本当にどんどん関係が変わって……オレの気持ちも、変わっていった。
やっぱり、何度考えても――――。
というか、考えれば考えるほど。
たまたま近くで、たまたま居たから、そういう気になったとか、勘違いとかじゃないよ、奏斗。
――最初から気になってて、ついていったホテルで目が合った。そもそも、それが、偶然じゃない。
そもそもがおかしいんだよな、オレが、あんな風に面倒くさい人に、自分から絡むとか。
奏斗。
多分、オレ――――オレの裏に気づかれた時にはもう、意識してたんだ。
そんな、人の裏なんて知らないような顔してて、ふわふわしてて……そんな、可愛い顔、してるのに。なんでそんな、誰も気づかない裏に気づくんだろうって。ずっと、気になってた。
――――避けてたけど。それは、意識、してたから。
「――――……」
ふと、スマホを手に取る。
時差を考えると、今がいいかな……。夕食が終わった頃。
椿先生宛に、海外にいるからまだ分からないということと、誰が来れそうなんですか、というメッセージを送ってみた。
またスマホをテーブルに置いて、海に目を向けた。
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