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番外編【諦めるか否か】大翔side 7

「大翔?」  そんな声とともに、閉めておいた窓が静かに開いた。 「母さん……起きたの?」 「うん。トイレ。……カーテンが開いてたから」 「そっか」  テーブルをはさんで、もうひとつ置いてある椅子に、母さんが座った。 「大翔、眠れないの?」 「ちょっと、日本に連絡したかったし」 「ユキくん?」  母までもうすっかり、「雪谷くん」から「ユキくん」になってしまった。ちよっと苦笑してしまいながら。 「ゼミの先生――まあ、奏斗も一緒のゼミだけど」  そう言うと、ふうん、と母さんは頷く。 「ねえ聞いてもいい? 大翔は、なんて言って、振られたの?」 「んー……無理、って言われたかな」  苦笑でそう言ったら、母さんは、きょとんとして、くすくす笑った。 「それは大変」 「……ほんと、大変なんだよ。普通なら、もう、諦めないといけないとこだと思うし」 「んー……でも、ほんと、あの子可愛かった。笑顔が素敵だったし……大翔や潤が懐いてるのよー。絶対イイ子よね」 「オレと潤が?」  オレと潤が懐いてるからって、どういう意味? と思っていると、母さんは、ふふ、と笑った。 「潤って、大翔にちょっと似てるのよ。……色んな大人にたくさん会ってるからかな。なんか本能的に好き嫌いを判断しちゃうのよね……大翔もそうだけど、大翔はそれを表には全然出さなくなったけど、潤はちっちゃくてまだ素直だから、好きな人とそうでない人がすごく分かるの」 「――――」 「二人が本能で、すっごく懐いてるユキくんは、絶対イイ子だと思っちゃう」  なんだか母のいうことは独特だ。  ……でも、言ってることは、なんとなく、分かる気がする。 「私は、可愛い息子がもう一人増えるなら、嬉しいなー」  ふふ、と笑う母に、「つか、振られてるからね」ともう一度言う。 「……ていうかさ。ほんと、なんか、言ってること不思議なんだけど……孫とか、欲しいんじゃないの」  オレが、考えながらそう聞くと。  母さんはオレの顔をじっと見つめて、んー、と考えてから。 「欲しいとか欲しくないとか、私が言うのは変だから言わないけど――――大翔が幸せなのが良いのよ」  そこまで言って、母さんは少し遠くの海の方に、視線を向けた。 「……たとえば大翔が好きな女の子と結婚したら、子供はできる可能性はあるけど……でも、そうとも限らないんだよね。欲しくてもできない人も居るし、 逆もあるし。……もうそれはもう運命、みたいなもので……人がどうにかできることじゃないと思うのよね」 「……うん。まあ。……そうだけど」 「うちは、瑠美と大翔が生まれてきてくれたけど、それも、タイミングとか、色々少しずつでも違ってたら、叶わなかったかもしれない」 「――――……」 「だから、そんな、分からないことは考えなくていいのよ。ユキくんとどうにかなれるなら。そっちの運命を信じたいならそうすれば。……とりあえず、大翔が考えるのは、ユキくんに告白する方法とか。今度は振られないようにするには、とかそっちじゃない?」 「……そうだね」  言いながら、笑ってしまう。  ……ほんと。変わってるし。 「……母さん、オレ……」 「うん?」 「オレさ……今まで、あんまり人、好きになってないんだよね。なんか……線引いて、適当にうまく合わせて……それで関係が良くても、別に俺は嬉しくもなくて。ただめんどくさくないっていうだけで」 「……うん。まあ、分かってたような……大翔のそれは」  クスクス笑う母さんに、「母さんにそこらへん、何も言われたことないけど」と苦笑すると。  母さんは、少し考えてから。 「すっごく好きな人が、早く出来たらいいなーって思ってたよ?」 「――――はは。もう。何なの、ほんと……それ、姉貴にも言われた」  はー、とため息。

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