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番外編【諦めるか否か】大翔side 8

 ほんとに母さんも姉貴も……ていうか、家族全員、なんだかなあ、と思いながら。  オレは、ひとつ、息をついた。 「……他の奴にはバレてないと思う。……胡散臭そうな顔されたの、奏斗だけだし。言わないで思ってた奴は居るかもしんないけど、分かんないし」 「うん……でもね?」  ふふ、と母さんは笑う。 「大翔が人に合わせるのは、普通の人が普通にやってることだから。相手が気分よくいられるように……適当ってよりは、適度かな」 「――――」 「だから大翔はお友達多いでしょ。周りの人は、大翔のことを好きなんだよね。でも大翔は、自分のことを、適当にやってるって思ってて、その自分をあんまり好きじゃなかったかもしれないけど……」  そんな風に言って、母さんは苦笑い。  ……なんか葛城もそんなようなこと言ってたな、なんて思いだす。 「でも、奏斗は、オレが本気で喋ってないのに気づいてさ。バレたこと無かったから最初は、何でって思って――しかもあの人、オレが今まで会った人の中で一番面倒で意味わかんなくてさ……関わんない方がいいって思いもしたし」 「うん」 「だけどそれが無理で……しかも人のことは受け入れて否定しないし。良い人で居なくてもそのままでいいとか、言ってきてさ。一番面倒な人だったのに、結局……一生一緒にいたいとか思って……」 「うん」  母さんは、余計なことは言わず、ただ、うん、だけ。  思えばこんなことを、母さんに話すのって、初めてかもしれない。こんなに普通に話してる自分のことが少し不思議だった。   「でも、無理だって言われて……奏斗には俺がいらないんだって思って」  それ以上言う言葉が見つからなくて、少し黙ったまま、月を見つめていると、母さんは、ふ、と息をついた。 「――――ユキくんは、大翔を嫌いって?」 「……嫌いとは、言わなかった」 「そっか……」  何かを母さんが言いかけた時、テーブルの上のスマホが音を立てた。  目に映して、ドキ、と心が揺れる。 「……奏斗、ゼミの集まり来るって」  どうしよう。  ……行ってもいいだろうか。  オレが来るかもしれないゼミの飲み会に、参加するって言ってるんだから……行ってもいい、気がする。  和希に会いたくないからって、部活の集まりには行ってなかった。集まりに参加しないって選択肢は、奏斗にはある訳だし。   「いつなの?」 「来週」 「間に合うの?」 「……飛行機、とれれば。オレだけ先に帰ることになるけど」  母さんは、クスクス笑って、頷いた。 「明日葛城に頼んだら。先帰っていいから」 「――――いいの?」 「大翔、今もう帰りたそうだから。……スマホ見た時の顔ってば」  ふ、と母さんが微笑む。 「え。オレ変な顔した?」 「もう、会いたくてしょうがないんだろうなーって、思った」 「――――……そう?」 「うん」  クスクス笑いながら、母さんは頷く。 「ユキくんは……もともと、男の人が対象なの?」 「ん。そう」 「大翔は?」 「……分かんないな。敢えて考えたこともなかったけど……奏斗に会ってから、奏斗しか、目に入ってないし」 「――――……ふ」  吹き出すように笑って、そのままクスクス笑い続ける母さん。 「母さん、お見合いした時ね?」 「ん」 「ほんの少しだけ迷ったの。他に気になる人がいて」 「え。そうなの?」 「でも、お父さんがすごくまっすぐで――――……すぐ、好きになっちゃったんだけど」  これは内緒だよ、と母さんは笑う。 「今の大翔、あの時のお父さんに似てるなーって思って。カッコイイから、きっと大丈夫よ」 「――――……」  奏斗は見合い相手ではないし。男女でもないし。  ……振られてるし。  …………何とも言えないけど。  よく分からないながらも、多分励ましてくれているのは分かる。  ……もしもうまくいったら、息子が男と付き合うことになる、というのに。 「なんかオレ」 「ん?」 「……奏斗とのこと考えることで……他にも色んなこと、考えるようになったかも」 「あら。いいじゃない。成長したってことでしょ。もし振られても、そういうのは人生に生かされるから大丈夫よ」  楽しそうに言う母さんに、「だから振られてるんだけど」と言うと、母さんは「そうだった」と苦笑い。 「もう少しだけ頑張ってみるのもいい気がするのよね……まあ、嫌われたら、諦めなさい。大丈夫よ、まだ若いんだから。大翔が成長していけば、素敵な人が周りに集まるから」 「――――……」  嫌われたら、という言葉に苦笑しながら頷いた。  集まりは、出席にしておくと、それを聞いて奏斗が来なかったら困るから。一応欠席にして、もし行けたら、ということで、先生には連絡しておいた。  翌朝。ゼミの集まりの日程を葛城に伝えたら、ギリギリですね、と眉を顰めながらも、予約が取れるか見てきますと急いで出て行った。 「先に帰るとか、ほんとは無しだけどな」  と親父が苦笑。 「まだ飛行機分かんないじゃん」とオレが言うと、「葛城のあの感じで取ってこない訳がないだろ」と笑う。  確かにそうだな、と思いながら、頷く。 「ええー! ヒロくん帰っちゃうの?」 「ちょっと用事があってな」  聞きつけた潤に応えると、「ユキくん?」と膨らむ。 「お前、オレの用事とかは全部、奏斗だと思ってる??」 「ちがう?」 「……そうだけど」 「ずるいー! 潤もかえるー!!」  騒いでる潤をなだめながら、もう、気持ちはここを離れている。  その後、葛城が取ってきた航空券は、まだすぐ乗れるわけでもないのに。  早く日本に帰りたくて。  逸る気持ちを抑えるのが大変。  ――――……会いたいな。奏斗。  もうそれしか、なかった。

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