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番外編【諦めるか否か】大翔side 9
日本についた。
……騒いでる潤と別れて、なんだか、頑張れよとニヤニヤしてる他の皆と別れて、一人戻ってきた。
飛行機の中。
一人になって、ずっと考えていた。
旅行中、色々話したことによって、考えは決まったはずだったけど、結局、奏斗に近づくにつれ、ちょっと待てよ、となる自分も居る。
そもそも、オレ、完全に無理って振られてるからな。
家族が皆、「一回振られたくらいで」みたいな人達だったせいで、ちょっともりあがってしまったが。
よくよく考えてみれば、さんざん近づいて、側に居て、ずっと一緒に居たいとか言った挙句、無理だと言われた。
もう、オレとは居なくていい、と、奏斗は一度決めたんだ。
それが、オレの家のせいとか、オレの将来とか、そういう色々なのが理由のどこかに入っていたとしても。奏斗は、オレとは、もう居ないと決めたってことだ。
ゼミの集まりに来るのだって、オレが来るとかもはや関係なく、ただ、その集まりに来たいだけっていう可能性もある。というか、そうなんじゃないだろうか。大体、ゼミの集まりは、夏休みが終われば確実にある訳で、もうしょうがないから行こうってことにしただけかもしれないし。
一人になって考えてると、なんか、奏斗が来るからって、大急ぎで帰ってきたオレがバカなんじゃないかと、思えてくる。
預けた土産も、いつの間にこんなに買ったっけ?と自分でも引くほど、あるし。これ渡したら、引かれるよなぁ……。
そんな風に考えながら飛行機を降りて、奏斗へのお土産の手荷物を受け取った時点で、またその量に改めて引く。
これどーやって渡すんだろ、オレ。
つか。
ギリギリかと思ったけど、結構時間がある。
――――……張り切って、来たと思われるのは、かなり嫌だな。集まりはマンションのある駅なので、とりあえずオレはマンションに荷物を置きに戻ることにした。
タクシーで、久しぶりに帰ったマンション。
奏斗は時間通りに行くだろうから、もうとっくに出ているはず。部屋で荷物を片付けて、土産をリビングに置いてみる。
どれか特に渡したいものだけ渡すっていうのも、ありだろうか。
あ。このチョコレート。
潤がすげえうまいって言ってて、奏斗にも食べさせたかったんだよな。これは絶対食べてほしいから……そうだ。飲み会にもってって、いっこずつ でも分けてもらえば、とりあえず食べてはもらえるし。……よし、持っていこ。
チョコは紙袋に入れて、残りを思わず眺める。
……つか、これ全部奏斗に買ってきたって、オレ、マジでどんだけだ。
ヤバいなー。
テーブルの上に山積みになっている奏斗への土産に呆れながら、ふと、窓の外に目を向けた。
まだ日が落ちるのが遅いから、外は明るいが、もう集合時間は過ぎている。そろそろ出るか……。
ふっと、ソファの端に座らせたままの、二号が目に入った。ソファに座って、二号を膝にのせて、その顔を見る。
「似てないし……」
二号。とか。……笑えるし。
これに二号とか名付けて、笑ってた奏斗。これを抱き締めて寝てた姿とか思い出すと、胸が痛い。
……奏斗は、これ、欲しいって言ってたよな。
ここにあると、見るたびに奏斗を思い出すし。
…………とりあえず、話せたら、あげとこうかな。一人で丸くなって座らなくて済むかもしれないし。……もし和希と付き合ってたら、これはいらないだろうけど。聞いてから。
――和希と付き合ってたら。
……付き合って、なかったら?
それは、関係なく、オレはどうしたい……?
もし奏斗が本当にオレとは無理なら、このマンションも出た方がいい気がする。諦めるには離れるのが一番だと、思うし。奏斗も気まずいだろうから。
しばらく、色々なことを考えては打ち消したりしながら過ごしていたけれど。整理できないことはそのままに、とりあえず、会いに行くことにして、二号をソファに降ろして立ち上がった。
◇ ◇ ◇ ◇
店に近づくにつれて、すっげえドキドキしてきた。
……こんなにドキドキすることって、近年無かったような。
しかも嬉しいというよりは、嫌なドキドキだ。
オレを見た瞬間に、奏斗が嫌な顔をしたら。
消えたくなりそうだな。マジで。
ふ、と息をついて、まっすぐ前を見据えながら、店の引き戸を開けた。元気のいい「いらっしゃいませー」が響いた。入ってすぐ、奥の座敷に座ってるゼミの皆が見えた。……奏斗の後ろ姿も、目に飛び込んできた。店員に連れであることを伝えて、オレは、とりあえず椿先生の方に進んだ。
「四ノ宮くん。来れたんですね」
先生がオレの顔を見て、ふわ、と笑うと、周りがわっと沸いた。
オレに気づいてなかった奏斗が、その声に、ふっとオレを見て、固まってるのが分かった。オレに気づいたよな。……今、何を思ってるんだろ。
「四ノ宮、家族と海外だったんじゃないの?」
「これに出たいから先に帰ってきちゃいました」
奏斗に会いたいから。
そう思いながら言うと、周りが騒ぎ出す。
まあ飲め飲め、なんて言われて、適当にかわしながら。……本当は、奏斗を見たいのだけれど、なかなか、そっちに視線を向けられない。
どうしようかな。さっき、すげえ固まってたのは目の端にうつった。
嫌で固まって可能性も捨てられないけど。
そんなの、関係なく。
――――……奏斗がここに居るのが。
ヤバい。
なんだか意味不明。涙腺が、ゆるみそうなくらい。
……すげえ、嬉しい。
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