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番外編【諦めるか否か】大翔side 10
奏斗がオレの方を向いてないのは何となく目の端で分かる。ふと皆を見回す振りで、奏斗に視線を向けた。向こう側に居る先輩達と、話してる。
姿を、見るのは、あの別れた日以来。
あの日まで、あんなに毎日毎日、ずっと一緒に居たのに。
奏斗は、寂しいとか感じないんだろうか。オレと離れても全然平気で、全く思い出しもしないとか……。そんなタイプじゃないかなとは思いながらも、ネガティブ思考が、沸き起こる。
「……あ。そうだ」
オレは脇に置いたチョコレートの箱を紙袋から取り出した。
「先生、これ配ってもいいですか? お土産なんですけど」
「あぁ、それ位、良いんじゃないかな?」
先生がそう言いながら、ちょうど通りかかった店員に配ってもいいか聞いてくれてる。どうぞーと言われて、箱ごと回してもらうことにした。
周りと話しながらも、奏斗の手に渡るまで、なんとなく目で追ってしまう。奏斗が手に取った時点で何だか嬉しい。そう思っていたら、奏斗がグラスを手に取って、なんだか勢いをつけて飲み干してるのが見えた。
「――――……」
この店たまに来るけど、ソフトドリンクには赤いストローがついている。間違ってアルコールを飲まないようにするためなのだけれど、今奏斗が飲んだのには、入ってなかった。今口をつけてあおって飲んだよな。……でも飲んだら酒って分かるか。ストローいらなくて、外しただけかもだけど……。
眉を顰めていると、先生や先輩達にまた別の話を振られる。
なんとなく気になって、奏斗をたまに見ながら、しばらく話していたけれど、奏斗の顔……絶対赤い。
いいよな、これは、話しかけても。
――――少し迷ったけれど、でも、あのバーの時も、フラフラしてたのは、酒もあったろうし。
ちょっと向こう行ってきます、とだけ言って、席を立つ。
奏斗の方に近づくにつれ、嫌がられたらというドキドキは増すのだけれど、でも、酔っ払ってるみたいな顔をしているのが、しっかり見えてくる。もう、酒を間違って飲んだんだと、確信する。
「あれ? ユキ、顔赤くない?」
相川先輩の声が聞こえる。その後、前に居る先輩と、酒の話をしているのも。
つか。ジンジャーエールの酒ってあの時の――――。
聞こえた言葉に、自然と眉が寄ってしまう。
奏斗の後ろから声をかけようとした時。不意に、ふら、と揺れた奏斗が、オレの脚に、頭をぶつけた。
――――奏斗。
そんな接触ではあったけれど。
触れた瞬間。胸が大きく弾んだ。
「あ、ごめ」
そう言いながら、こっちを振り返った奏斗は、オレを見上げて、ビク、と固まった。目を離せない、みたい。
「信じらんない。またその酒ですか」
ドキドキも、心臓の痛いような苦しい感覚も、全部ごまかすために、少し呆れた口調で、オレは、なるべく普通を装って、そう言った。
死ぬほどドキドキしていて。死ぬほど、目の前の奏斗が嬉しくて。
……でも、嫌がられていたらと思うと、死ぬほど、心臓が痛かったけど。
なんとか、普通に。
そう言えた。
すぐに、フラフラしてる奏斗に、周りが騒ぎだして、先生も側に来た。
奏斗の様子を見て、苦笑しながら、オレを振り返って言うことに。
「ユキくん、連れて帰ってあげてくれる? 近いんでしょ?」
そう言われて、先生ナイス、と心の中で思う。それなのに、周りが口々に言ってくるのは「来たばっかじゃん、四ノ宮」とか、「ユキ、寝かせてあげた方がいいんじゃないかな?」とか。けれどそれを聞いていた先生はまたオレに、よろしく、と言って笑った。――この先生は何かを感じて、わざと二人にしようとしてるのかなと少し怖いが。もう、今はスルーすることに決めた。
タクシーを呼ぶか聞かれて、歩いて帰れる距離だからと断って、奏斗をおぶったのは――タクシーなんかに乗ったら話すこともできずにすぐついてしまう。それですぐ別れるとか無理、と思ったから。
もしも奏斗が嫌がったら、タクシーにしたけど、奏斗はそんなには嫌がらずに大人しく、オレの背中に収まってくれた。話してくれる気があるのかと、変に期待してしまう。
分かってる。
オレは今、ただ、酔っ払った奏斗をおぶっただけ。
――――……それでも。
背中に感じる奏斗の存在が、愛しくて。
胸が締め付けられるみたいだった。
ああ、やっぱりオレ。
この人が好きだな、と。
ただ、実感する。
(2024/3/31)
そうだ。そういえば、こないだ始めてみたエブリのエッセイ「言葉のかけらたち」の12ページに二人がちょっぴり出演?してます。お時間あったら(*´ω`*)
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