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番外編【諦めるか否か】大翔side 11
奏斗をおぶって、ゆっくりと、歩く。
――――背中、熱い。
なにから話せばいいんだろう。
……マンションまでの短い時間。なにを言いたいか、聞きたいか。
ゆっくり歩きながら考える。
「もーほんと。何してンのかなあ」
敢えて、普通に。気まずい感じじゃなく、話すことに決めた。前のオレなら、言ってるようなセリフを。前と同じような口調で。
「ごめんね」と、小さく謝るのが聞こえる。ストローの話をすると、奏斗は意識してなかったみたいだった。まあ、意識して飲むわけはないだろうけど。
「ジンジャーエールの酒って……デジャヴュかよって感じ」
なんか、しっかりしてるくせに、ちょっと抜けてるとこ。ちょっと奏斗らしい。可愛いなんて感じて、思わず苦笑してしまう。
奏斗は後ろで、気まずそうに、ん、と頷いてるみたい。
……何から話せばいいんだろう。そう思っていたら、ふと、目の前に見える、月に気づいた。
月、か。
――――前に一緒に見たの、奏斗は覚えてるかな。
「でっかい月。前にもこんなの、一緒に見たよね」
なるべく明るい声で、言ってみる。
奏斗からは返事がない。おぶさっていて、揺れると気持ち悪いかなとふと気付く。
「奏斗、気持ち悪くない? 平気?」
そう聞くと、小さく頷く気配。
「話しててもいい?」
頷いてくれる奏斗に、「返事しなくていいからね」と言ってから、ゆっくりと、話し始めてみる。
家族との強制参加の海外旅行のこと。家族が、奏斗とのことを、どう言ってたかとか。
「ゼミの連絡が来て参加する人を聞いたら奏斗も居て、そしたら顔が見たくなっちゃってさ。オレが行くって言ったら来ないかもしれないから、参加するとは言わずに急いで帰ってきたんだよね。……迷惑だったかもしれないけど」
自然と、本当のことを言ってる自分に気づいて、ふ、と笑ってしまう。
……昔のオレなら、こんなの言わなかったな。カッコ悪いし。……振られた相手に、顔が見たくて、なんて、絶対言わなかった。
「でも、こんなんになるなら、来て良かった」
迷ったけど、来て良かった。
……こんな風に、話せる機会が持てるなら。
奏斗は答えない。……答えないけど。拒否してる雰囲気も無い。
嫌なら一緒に帰ることも拒否できただろうし。おぶさることも、しなかったと思う。だから余計に、オレは、言いたいと思っていたことを話せそうな気がした。
「向こうで家族と二週間、色々話してさ。オレが本気で奏斗を好きだったのは、皆、分かってくれたんだけど……まあ、でももう振られたけど、って言ったらさ。一度振られた位で諦めるのかって聞かれるの。ていうか、うちの家族、いくらなんでも理解ありすぎて逆に不思議でさ……」
ほんと不思議。なんなんだろうな、あの人達。
おかげで――――今オレは、ここに居るけど。
家族たちが、奏斗とのことを反対しない理由を、奏斗にそのまま伝えてみる。言ってるうちになんだか可笑しくなってくる。
奏斗はやっぱり何も言わない。返事はしなくてもいい、とは前置いたけど。何を言っていいか、分かんないだろうとも思う。
――奏斗の顔が見えなくて、どう思ってるかすらも分かんないな、と思いながらも、話を切らずに続けていく。
「……あ、でも一人だけ反対してるんだった。あのね、潤は反対なんだよ。ユキくんは潤のだもんって言ってた。意味分かってんのか知らないけど……オレ達、ライバルらしいよ」
あんまり家族が皆賛成だとか、言いすぎない方がいいか。
奏斗に重く感じさせない方がいいとも思って、最後に、潤のことも付け加えた。
……あいつも奏斗のこと、ほんと好きだよな。
似てんのかなあ、好み。ちっちゃいくせに――――生意気。
潤の顔を思い出して、言いながら、ふ、と笑ってしまう。
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