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番外編【諦めるか否か】大翔side 13
色々思うことはあるけど、奏斗に変に思われないように、すぐにまた話を繋げる。
オレは、そういうのは、ほんとに得意なんだよなと少し視線が落ちながら。
「そうなんだ。あ。江川も居た?」
「うん」
「喜んでたでしょ」
「うん」
「良かったね」
少しだけ嬉しそうに頷いた奏斗の返事には、オレも、自然と笑みが漏れた。
「ん。……あと、ね」
「ん?」
「父さんとも、話した」
「……あ、実家に行ったの?」
「うん。恋愛対象が男ってことも、ちゃんと話して……頑張って生きてくからって言った。まだ全部は理解できないけど、見守ってくれるって」
「そうなの? すごいじゃん」
前に聞いてた時は、とてもそんなこと出来なそうだったのに。
嬉しいなと思って、そう言った。
……どう頑張ったんだろうか。
奏斗が、前を見てるのが嬉しいような。
また違う感情もあるような。
「母さんがね。子供と話そうともしないなら離婚も考えるとか言ってたらしくてさ。……父さんが母さんと離婚したくないんだなってことも分かったというか……」
「はは。そうなんだ。奏斗のお母さん、いいね。真斗は? 喜んでたよね?」
「うん。……何日か、実家に泊ってきた」
「そっか。よかったね」
そっか。奏斗のお母さんか。
良かった。味方が、真斗だけみたいな感じだったから。そんな感じなら、すごく心強かったに違いない。
「奏斗が、ちゃんと前に進んでる感じがして、嬉しい」
「――ん……」
言葉通り、嬉しいのに。
でもやっぱり、胸が痛い。
オレが支えてなくても平気、みたいなのが、切ないんだろうか。
……勝手だなと、すぐに自分に対して思う。
「つか、もしかして今、オレが居なくても平気って意味で、言ってたりする?」
「……そんなんじゃ、ないよ」
そうだよ、と言われたら。諦めがつくだろうかと思って聞いてみたけど。
違うと言う。
……そんな遠回しで、そんなこと言う人じゃないか。
そうだよな。言わない。ただ、きっと、オレが心配してるだろうこと、心配しなくていいって意味で、きっと伝えてくれているんだろうな。
そんな風に聞かなきゃよかった、と思っていると、奏斗が、すう、と小さく息を吸った。
「……さっきの話なんだけど。和希とよりなんて戻さないよ……?」
「――――そうなの?」
.
……そうなんだ。
よりなんて、戻さない。この言い方だと……戻す気は、無さそうな気がする。過去のことは、吹っ切って、普通に話しができるようになって。お父さんにも話せて……それでも、和希とは、よりは戻さないのか。
……戻さなくても。
オレとは、無いってこと、か。
マンションのエントランスに入り、オレは奏斗を振り返った。
「奏斗、降ろして平気?」
「あ、うん」
返事がさっきよりはしっかりしてきていたので、降ろすことにした。
抱き付かれてるみたい感じで、ずっといたい気持ちもあったけど。
それよりも、あと僅かの時間。
奏斗の、顔を見たいなと、思ったから。
「ごめん、重かったよね。ありがと」
「平気だよ。オレ力はあるから」
そう言いながら、開いたエレベーターに乗り込む。奏斗は、オレの後ろに立った。階数ボタンを押してから、振り返る。
「ふらふらしない?」
「平気」
「顔赤いのもとれたかな?」
奏斗の顔を見て、「大丈夫そうだね」とほっとした。
けれどその後、ぐ、と手を握って、自分を抑えた。
二人きりで顔を見たら、好きすぎて、どうしようなんて、思った。
すぐ届くところに奏斗が居るのに。
手を伸ばせば、頬に触れられるし。
抱き締めることもできる距離なのに。
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