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番外編【諦めるか否か】大翔side 15

 エレベーターを降りて、ゆっくりと歩く。何だか話したいことはたくさんある気がするのに、それら全部意味がないような気がして、言葉が浮かんでは消えていく。  そうしている間に、オレの部屋の前についてしまった。  奏斗が、多分、別れの言葉を言おうとした時。オレは、とっさにそれを遮った。 「あ、奏斗。おみやげ、貰ってって」  辛うじて出た、引き止めの言葉。 「え。いいよ、おみやげなんて」 「奏斗のために選んで来たんだから、それ位貰ってよ」  遠慮してる奏斗を引き止めて、鍵を開けた。 「玄関で待ってて。すぐ持ってくるから」  ドアを開けて待っていると、少しの躊躇いは感じたけれど、中には入ってくれた。あがって、と言えない関係性に、胸が痛い。  靴を脱いで、部屋の中に。さっき部屋に置いていた奏斗へのおみやげを、もう全部渡してしまおうと、抱え込んで玄関に戻った。 「何その量……」  ……案の上、引いてるし。   「お菓子とか、美味しかったコーヒーとか、ナッツとか、あと、いい香りのハンドクリームとか……向こうで使っててよかったもの、買ってきた」  引かれてるけど、もう見せちゃったし、渡すしかないと思って、奏斗に渡していく。 「何でこんなに……いっこで、いいよ」 「だってオレずっと奏斗のこと考えてたし。これいいなーとか、食べさせたいなーとか全部買ってきた。とりあえず貰って?」  あ。渡したくて余計なこと言ったかも。まあもう言っちゃったもんは仕方ないかとか考えていると、まだ全然渡し終えていないのに、奏斗が小さく首を振る。 「持てないってば」 「紙袋持ってくるから、待ってて」  渡し切れていないものを玄関マットの上に置いてから、オレはまた部屋に戻った。  紙袋を入れてる棚の所で、一枚の紙袋に手をかけて、止まる。  これを玄関に持っていって、おみやげを詰めて、渡したら。  それで最後か。  ――――胸の奥が、痛い。  隣の部屋に居るのに。距離にしたらものすごく近いのに、交わらないとか。  ……やっぱり、この部屋は出るしかないか。  ふ、と小さな息を吐く。  とりあえず、笑顔で。  奏斗の記憶に残るオレが、暗い顔してんのは、嫌だ。  心を決めてから、玄関に向かって歩き出した。   「お待たせ」  笑顔で言って、奏斗が抱えたままのおみやげを、下に置いた紙袋に入れていく。 「そんなにたくさんもらえないよ……」 「いいじゃん、おみやげくらい。要らなかったら捨てて」  困ったように言う奏斗に、確かに多すぎるかもと思いながらも、渡してしまいたくて、努めて明るくそう言った。奏斗は捨てたりはしないだろうと、思いながら。 「分かった。……もらう。ありがと」 「うん」  紙袋を下に置いて、玄関マットにおいた物も中に入れていく。  ――――これ、入れて、渡したら。  出ていくんだよな。  当たり前のことなんだけど。  咄嗟に引き止めてしまいそうでヤバい。 「あのさ、四ノ宮」 「ん?」 「オレ、和希のこと、そういう意味で好きじゃないよ」 「――――」 「その勘違いは、ちょっと嫌、かも……」  ――――……なんだか、何も考えられなくなる。  そういう意味で好きじゃない。  ……オレがそれを勘違いしてるのが、嫌?  ……何で?  よく分からない。  ――――オレがそれをどう思おうと、関係ないだろうに。  何が言いたいんだろう。  それ、どんな気持ち?   「――――それ、何で嫌なの?」  オレは、顔を上げずに、そう聞いた。  少し声のトーンが落ちてるのが分かる。 ◇ ◇ ◇ ◇ (2024/4/17) 後書き セリフが同じだけど大翔side読みたいですかとエブリスタ(一番ブクマが多いので)でお伺いして、 読みたいと言ってくださる方ばかりだったので書き始めましたが、 やっぱりセリフが同じなので…新しく書くのとは違いますね💦 読みたいと思ってくださってる方に向けて書いてます。 あ、私は、大翔が考えてるのを書くのは好きなので楽しんでます。 もし、あんまり…でしたら、この番外編は飛ばしてもらって大丈夫ですので✨ 次の番外編までお待ちいただければと思います✨

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