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番外編【諦めるか否か】大翔side 25

「……なんか、嘘みたい。奏斗がここに居てくれてるの」 「オレもそう思う」 「だってオレ、ここも引っ越そうと思ってたし」  オレがそう言うと、奏斗は少しだけ俯いて、「うん」と頷いた。その頬に触れると、奏斗はまたオレを見つめた。 「さっきさ、和希のこと好きじゃないって聞いて、それならって一瞬思ったんだけど……それでもオレと付き合うってならないのは、オレのことをそういう意味では好きじゃないからだと思ったからさ……。やっぱり、諦めないとって思ったし」 「オレも……最後の最後まで、離れた方がいいって思ってたから……」  最後の最後まで。  ……最後。奏斗にとって、それが変わったきっかけは。  やっぱり、オレが、泣いたこと、だよな。んー……。 「――――オレ、泣くとか超カッコ悪い」  苦笑いでそう言うと、奏斗はオレを見つめて、少し考える。 「ていうか、オレは何度も泣くとこ見られてるけど」  そんな風に言って、奏斗も苦笑い。 「でも、オレ、さっき、四ノ宮を泣かせたくないって思ったのが決め手だったから……」 「んー……じゃあ泣いたの、ありかな……」  そっか、と考えながらクスクス笑って答えると奏斗に「泣かせてごめんね」と見上げられる。  ……泣かされた、みたいで。なんかカッコ悪い気が……。 「やっぱ、恥ずいから忘れて」  そう言って、少し笑ってしまいながらキスすると。 「あの時も……」  奏斗がそう言って、オレをじっと見上げてくる。ん?と聞き返すと。 「付き合えないって帰る時もさ、四ノ宮が最後、オレを見ずに俯いてて……あれ、すごく辛くて……」 「……ん」 「あんな顔、させたくないのにって、ずっと思ってたから……」  ずっと思ってた。  その言葉が。シンプルに、嬉しい。 「離れてる間、オレのこと、考えてた?」  オレの質問に、奏斗は少し頷いてから。 「オレ、毎日出かけようとして予定入れてて……でも、いっつも、考えてた。むしろ離れてからの方が、好きだって、思って……」  そんな風に言われたら、もう抱き締めるしか、ない。  オレと離れてから、オレのことをいつも考えてくれてたとか、すげー嬉しいし。しかも離れてからの方が、オレを好きだって思ってくれていたのに、オレの幸せのために、オレとは離れようと思ってた、とか。本当にそのまま離れることにならなくて良かったと思う。 「それはオレもかも。……振られたんだからすっぱり諦めようって、思っててさ。今までならすぐ割り切って、忘れてたはずなのに、全然忘れられなくて、ほんと困ってた。つか、分かるでしょ、あのお土産。あれ、まとめて買ったんじゃないからね。奏斗を思い出すたび、だから。自分でもちょっと、買っても渡せないかもなのに気持ち悪いかなって思ってたけど」  離れてからの方が、って気持ちは、痛いほど、分かるかも。  会いたいって気持ちが、募るから、かな。  どうしても諦めたくないっていう自分の気持ちが、余計分かったのかもしれない。ならあの期間も、今となれば、あってよかったのかもしれないと、思える。……今となれば、だけど。 「でも、オレも……四ノ宮にお土産買った」  その言葉に、え、と間抜けな声が漏れてしまった。 「そうなの?」  奏斗が、小さく頷いて見せる。 「渡すつもりなかったけど……なんか、ずっと、四ノ宮にお土産買おうかなって考えてるから……もう考えてるの嫌になって、買ってすっきりしてたんだけど」 「何その理由」  なんだかおかしくて笑ってしまうけれど、でも、同じように思い出してくれていたことが嬉しくて、抱き締めてた奏斗の頬に、触れた。 「……でも買っても、今度は、きっと渡せないのにって思って、また気になるし」 「どっちにしてもずっとオレのこと、考えてたってこと?」  嬉しいなと思って、まっすぐそう聞くと、奏斗はしばらく考えてから、小さく頷いた。 「一人の時は、ずっと考えてた、かも……」 「そんなだったのに、ついさっきまで、離れようとしてたんだね」  ほんと奏斗って……自分のことより、人のこと優先しがちだよな。  オレは奏斗の両頬を、ぶにぶにと潰す。  でも、そんなとこが、愛しいし。  ――――奏斗がオレのことを好きだっていうのが、分かっていれば、オレはもう、奏斗を一人で考えさせるなんて、する気はないし。 「……ごめん」  オレにぷにぷにされたまま、奏斗は、一言だけ、そう呟いて、オレをまっすぐに見つめた。 「ん。もういい」  そう言うと、オレは奏斗を引き寄せて、腕の中にぎゅっと抱き締めた。  一瞬オレの腕の中に埋まった奏斗は、何を思ったのか、顔だけオレの方に向けてくる。  ――――……腕の中。超近くから、でっかい瞳で、じいっと見つめてくるのが、可愛すぎて心臓がぎゅ、と痛いくらいで。  体の温度と、心の温度が、また上がったみたいな気がする。 「オレも、奏斗としばらく離れたから、余計本気で好きだったって分かったし」 「――――……」 「あの時にもしオッケイ貰えてても、奏斗はきっとずっと迷ってたと思うんだよね。オレと付き合ってていいのかな、とか、ずっと言ってそう」  奏斗の瞳を見つめて、思うことを伝えている間、奏斗は、小さく、頷いてる。 「自分で色々動いてさ。……それでもオレが好きって、思ってくれたならもう、吹っ切れたでしょ?」 「……ん」  オレを見つめたまま、こく、と小さく頷く。 「もう、色々全部吹っ切ってさ。オレとずっと居てよ」  そう言うと、奏斗はオレをまた、まっすぐ見つめる。  なんか、心の奥の奥まで見つめてくるみたいな。  でっかい瞳。  ……可愛い。  奏斗は、少し考えてから、今度ははっきりと「うん」と頷いた。  嬉しくなって、またその頬に触れる。 「オレは奏斗が好き。幸せにしたい。……笑っててほしい」 「オレも、そう」  また頷いて、笑みを浮かべた唇で、そう返してくれた。  もう、今言いたいことは、全部伝えた気がする。  ……もう、いいかな。もしかしたら、奏斗はまだ、もすこし話してからの方が良いかもしれないけど。  あ。  もう一度。  色々話したこのタイミングで、聞いておきたいことがある。  すり、と頬を撫でる。   「オレのこと、好き?」  そう聞くと、奏斗の瞳が、ふわ、と緩んだ。  すごく、可愛い表情をしてるな、と思う。  強がるとか、そういうののない、素直な笑み。 「うん。――――好き、四ノ宮」  ――――愛おしいって、絶対こういう感覚だと。  奏斗と居ると、確信する。

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