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番外編【夏祭り】2 *奏斗
夏祭り当日。
四ノ宮が朝からなんか、そわそわしてた。って、オレもだけど。
一緒にお祭り。しかも浴衣とか、四ノ宮、似合いそうで、すごく楽しみ。
昼から屋台が出始めて、十九時から花火らしい。
お昼を軽く食べてから、四ノ宮に連れられて、電車で移動。ある駅前の商店街。たくさんのお店が並んでいる中でも、浴衣のお店は、もう外から見ただけで、「和」って感じ。いつもなら入ることはないその空間に少しドキドキしてると、四ノ宮がそのドアを開けた。
「すみませんー」
「あ、はーい。いらっしゃいませー」
中は結構広くて、たくさんの浴衣や和風のもので溢れていた。店員さんも浴衣を着てるし、中に居たお客さんたちも浴衣の子が何人も。
うわー。なんかすごい……。と思って、店内を見てると。
何だかすごく視線を感じる。
男二人が、そもそも結構目立つっていうのもあると思うけど。
店員さんと話してる四ノ宮をちらっと見る。
……こいつが、ほんとに目立つ。背、高いから余計。いっつも外出ると思うけど。本人全く気にしてないというか。気付いてないのか、もはや無視してるのかな?
店員さんと話していた四ノ宮が、オレの近くに戻ってきた。
「浴衣と帯と、あと小物とか……レンタルで予約したんだけど、買えるみたいだから、買っちゃっていい? そしたらここに返しに来なくていいし」
「そんな着るかな?」
「着よ。ていうか、何なら、家で着るのもありかなと……」
「家で?」
「うん。家で」
何だかむちゃくちゃ楽しそうに微笑んでるので、ついつい、いいよと言ってしまいそうになる。
「浴衣っていくらくらいなの?」
「セットで1万からあるらしいけど、ピンキリ。プレゼントするから。家でも着て?」
「……家で着るかは分かんないけど。んー……お祭り、色んなとこ、行こっか」
すごくワクワクした感じでオレを見つめてくる四ノ宮に苦笑してしまいながら、そう言うと、四ノ宮はめちゃくちゃ嬉しそう。
……可愛いな、もう。何なの。……胸の辺りが、きゅう、と締め付けられる。
「お客様、どうされますか?」
寄ってきた店員さん。四ノ宮が「あ、買います」と、めちゃくちゃイイ笑顔を店員さんに向けるので、店員さんてば、ちょっと固まってから、「はいっ」と超笑顔になった。
……オレに向けてた笑顔で、他の人、見ない方がいいと思うのだけど。
案の上。回りに居る人達まで、すっごく、ざわついた。
え、ヤバい。モデル? 芸能人? 一般人じゃないよね。隣の子は、アイドルかなあ?
そんな声が色々聞こえてきて、色んな年齢層の人達がいるのだけど、すごくざわざわしている……。隣の子って。オレか……。
ものすごく愛想のいい店員さんに、キラキラ見つめられながら、浴衣が掛けられてるところに案内される。
もうこれはつきっきりで説明されそうな勢いを感じる……と、オレが苦笑してると。
「二人で決めたいので、決まったらまた声かけます」
そんな風に四ノ宮。言い方は柔らかいのだけれど、かなりはっきり店員さんを断ってる。この上なく残念そうに離れていった店員さんを見送りつつ、ちら、と隣の四ノ宮を見上げる。
「すごく、案内したそうだったけど」
「オレは奏斗と二人で決めたいし」
「んー。ほんと、引き寄せる感がすごい。感心しちゃう」
むむ、と四ノ宮はオレを見つめて。
「……つか。奏斗は自分が見られてる自覚はないよね?」
「オレが見られてるより、絶対お前を見てると思うけど」
「あーだめだな。奏斗は、自分が思ってるのの五倍くらい見られてると思って」
「……意味がわかんない。無いし……」
苦笑いで言って、オレは、四ノ宮のお腹のあたりを、とんとん、と軽く触れる。
「早く、選ぼ?」
見上げると、ん、と四ノ宮が嬉しそうに笑う。……つか。可愛いな。何でそんな嬉しそう……。
心の安定を図るために、ふ、と視線を逸らしながら、店内を見回していると。
「……なんか、さっきから思ってたんだけど、ここ、いい匂いするね」
「お香みたいのかな? こういう香りもいいね。落ち着く。今度、家でもたいてみる?」
「なんか四ノ宮の部屋でお香のにおい、不思議かも」
「そう?」
「うん。だってなんか、あの雰囲気でお香って」
「でもほんと、いい匂い」
「そだね」
ふふ、と笑いながら、浴衣を次々見ていく。
「んー。どれが似合うかなぁ」
浴衣の色や柄と、四ノ宮を見比べながら言うと、四ノ宮はクスクス笑って、「オレの選んでくれてる?」とまた嬉しそう。
「うん。選んでる」
「じゃあ、奏斗のは、オレが選んでもいい?」
「うん。変な柄のしないでね」
「変なって?」
「そこのでっかい金魚とか。そっちのめちゃくちゃ龍がのぼってるやつとか」
指さしながら言うと、四ノ宮が「それも面白いけど……」なんて笑う。
「でもやっぱり、奏斗は、綺麗なのがいいな。任せて、この中で、めちゃくちゃ似合うやつ、選ぶから」
四ノ宮が楽しそうすぎて、なんか微笑んでしまう。
(2024/6/22)
◇ ◇ ◇ ◇
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