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番外編【夏祭り】3 *奏斗
「四ノ宮は、淡いのよりは、濃い色で選んでもいい?」
「オレは奏斗、淡い色がいいなーと思ってるけど」
「うん。任せる」
「オレも任せる」
ふ、と見つめ合って、頷いて少し離れて、何列も並んでる浴衣を見ていく。
楽しそうに見てる四ノ宮を、周りの女の子たちが、ちらちら見てる。
――――まあ、カッコいいもんなぁ。四ノ宮……。
誇らしいような? ちょっと、そわそわするような? ……って彼氏を見てる女の子か、オレ。……まあ彼氏だけど。……って何言ってんのオレ、恥ず! ……と、次々に、自分に突っ込んでると。
「ご案内いたしましょうか?」
さっきの店員さんとは別の人が笑顔で近づいてきて、そう声をかけてきた。オレがふたつ持ってる黒と濃紺の浴衣を見て、「濃い色がお好みですか? 淡い色もお似合いな気がするので、両方合わせてみますか?」と笑顔で聞いてくる。
「あ、今選んでるのは、連れの、なので……」
そう言って、自然と四ノ宮の方に視線を流すと、その先を追った店員さんは、なるほどと言った顔をしてからオレに視線を戻した。
「お連れの方の浴衣を、選んでらっしゃる感じですか?」
「あ……まぁ。……はい」
変? 男同士で、浴衣、選び合うとか。
……なんかちょっと恥ずかしくなってきて、小さく頷いていると、ふ、と店員さんがめちゃくちゃ笑顔になった。なんか急に、さっきまでの営業スマイルではなくなった感が……。
「素敵ですね! 仲良しさんなんですね~!」
仲良しさん……? ……ちょ。なんか、恥ずかしい。
かぁ、と赤くなってしまって、思わず口元を隠して、顔を逸らしてしまう。
なんか。
……めちゃくちゃ楽しそうに笑顔になった店員さんが、更に何か言おうとした時。
「奏斗」
四ノ宮が近くに来て、オレの肩に手をかけて引いた。
「「あ」」
なぜかオレと、店員さんの声が、ハモる。
「奏斗、浴衣、合わせてみて?」
「あ、うん」
「あそこの鏡いこ」
四ノ宮は、オレが話していた店員さんにちょっとお辞儀をして背を向け、オレをひっぱる。端っこにある鏡の前まで歩くのだけど、肩に乗ったままの手が気になる。
「四ノ宮、どしたの??」
すごく近い、四ノ宮を見上げると、ちょっと、むぅ、と見下ろされる。
「何、めちゃくちゃ可愛い顔して、しゃべってんの」
「――――」
理解したと同時に、瞬き数回。
その後、ちがうよ、と苦笑してしまう。
「四ノ宮と、浴衣を選び合ってるとか流れで言っちゃったら、なんか、仲良しさんですねとか言われちゃって……恥ずかしくなったっていうか……」
「――――……」
「……恥ずかしくない? なんか……仲良しさん、とか言われると」
ますます恥ずかしくなってそう言うと、肩に触れてる手に、ぐ、と力が入った気がして、ん? と見上げると。
「……マジで、キスしたい」
囁かれて、ぐっと言葉に詰まる。
「絶対ダメ」
今だってどんだけ、視線を集めてると思ってるんだー! まず離れろー!
無理無理無理無理無理。
四ノ宮と付き合うことにはしたけど、オレはまだ、世間にカミングアウトするほどは覚悟が決まってない。
「四ノ宮、見せて、浴衣」
ぱ、と四ノ宮から離れて、鏡の前に立つと。
むぅ、とした顔で、四ノ宮が、オレを見てるけど。すぐ、浴衣をオレに見せながら、笑顔。
「どの色が好き? この水色も綺麗だし」
薄い水色の浴衣と紫、あとは白。皆、すごく綺麗な色。
「んー、白が、好きかなあ……」
「あ、ほんと? オレも実は白がいいかなーと思っててさ」
ふわ、と嬉しそうに笑う四ノ宮。
「でもちょっとあれなんだよね……」
「あれって?」
ん? と四ノ宮を見上げると。
「白、奏斗が着ると、綺麗すぎるかな……それに、なんか逆にやらし」
何言ってんだよ、と、口に手を押し当てて、塞いでしまう。
もー恥ずかしいな!
オレが四ノ宮を睨むと。
口を塞いだオレの手を掴んで、おかしそうに笑いながら、離させてる四ノ宮。めちゃくちゃ楽しそうに笑うので、こっちまで顔が綻んでしまいそうになる。
「冗談だよ」
そう言ってから、あーでも冗談じゃないんだけど、とか、ブツブツ言ってる四ノ宮を、また、んん? と見上げると。ふ、と苦笑しながら、首を振る。
「奏斗、着てみて。見たい」
優しい瞳でじっと見つめられて、今度は、どき、と胸が弾む。
……忙しい、ほんと。オレの心ン中。
「四ノ宮は、どっちがいい? 黒と紺」
両方、四ノ宮にあてながら聞いてみると。
「黒、好きかも」
「ん。似合うと思う」
……似合いすぎて、目立ちそうだなあ……と苦笑が浮かぶ。
でも、四ノ宮が着るとこ、見てみたい。
……見てみたいっていうか。
すっごく、見たいとか。思ってしまってる。かも。
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