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番外編【夏祭り】4 *奏斗
少し広い試着室と、一人で入る試着室とあって、どちらがいいか聞かれる。
中に着方も書いてあるから、基本は一人か、友達同士で入って、着るみたい。なんなら店員さんも手伝ってくれるみたいだけど、遠慮して、二人で広い方の試着室に入った。
一応すごく簡単な鍵がかかるようになってる。まあ、ちょっと引っ張ったら外れそうな鍵だったけど、ドアを閉めると、四ノ宮がオレを見て、ふ、と微笑んだ。
「なんか突然二人きり」
そんな風に言う四ノ宮に「そだね」と苦笑すると。
顎をとられて、上向かされた。同時に、すぐ重なってくる唇。
「…………」
絶対すると思った。
そう思いながら、キスを静かに受ける。少しだけ舌先が触れて、そのままゆっくりと離れた。
「……やめろって言わないの?」
悪戯っぽく笑いながら、至近距離で囁く四ノ宮の顔を見つめながら。
これ以上したら止めたけど、と笑い返すと、四ノ宮はますます目を細めて、笑う。
「しないよ。奏斗、すぐ色っぽくなっちゃうもん」
すり、と頬を撫ぜて、そのまま唇を親指でなぞる。
「浴衣着て、そんな顔させたら、危険だし……ていうか、周りに迷惑だよね」
「――――……」
何言ってんだろ、こいつ。ほんとにたまに全然意味が分からない。
迷惑って……。ふ、と苦笑すると、四ノ宮がくしゃくしゃとオレの髪を撫でた。
「そんなこと無いとか思ってるんだろうけど。危ないから、そんな顔させないから、キスはここまで……ほんとは、もっとしたいけど」
こそこそと囁きながら、オレをむぎゅ、と抱き締める。
はいはい、とその背を叩きながら、オレは四ノ宮の胸から顔を起こして、見上げる。
「早く、浴衣、着よ?」
「……ん」
しょうがない、とばかりにオレから離れる四ノ宮の腕を、くい、とひっぱって。え、とオレを見た四ノ宮の頬に、ちゅ、とキスした。
……なんか可愛くて。
つい。
「――――……そういうとこさぁ……」
自分の頬に触れて、なんか静かにだけど、そんな風に文句を言って、膨らんでる感じ。ああもう、とブツブツ言いながら。
「帰ったら、覚悟してて」
最後に、ちゅ、と唇にキスして、四ノ宮が、むー、とオレを見つめる。何度か瞬き。頬が少し熱くなるけど。
ついつい、ぷ、と笑ってしまう。
「いつもじゃん?」
そう言ったオレに、そうだけど、と四ノ宮。シャツの下に手を入れられて、ひゃ、と竦みあがったら、すぽ、と脱がされた。
「はい、着てみて」
「もー、脱がせ方!!」
「だって奏斗が、オレで遊ぶから」
「遊んでないし」
「じゃあなんでせっかくキス、我慢してるのに、頬にキスなんかすんの?」
「え。……あー……」
可愛かった、から??
……恥ずっ。
かぁぁぁ、と赤くなると、四ノ宮は、目の前で、オレに浴衣を着させながら、ますます眉を寄せる。
「ちょっと、マジで可愛すぎるの、勘弁してくれないかな……」
はー、と息をつきながらも、浴衣を合わせてくれる。
「じゃあ、浴衣持って、肩の高さでひっぱってて。合わせるから」
「ん」
「右が下……って、知ってた?」
「どっちかが正解なのは知ってるけど、どっちかは分かんなかった」
「オレも」
だよね、とクスクス笑い合う。壁にかかってる男性浴衣の着方、というのを見ながら、四ノ宮が着せてくれる。
「きつくない?」
ウエストの所で縛りながら聞くので、うん、と頷くと。
「そしたら、帯を巻いて……へえ、マジックテープついてるみたい」
「へー……?」
と、色々知らないこともありつつ、とりあえず着れた。
最後少し整えてから、鏡の前に立たされて、四ノ宮も鏡を覗き込んでくる。
「んー。……どう?」
「似合う。世界で一番、奏斗が似合うと思う」
「……大げさ」
ふ、と苦笑すると、本気だけど、と微笑む。
「白に黒い帯、いいなぁ。なんか清楚だし。でもなんかやらしい感じもするし、最強」
「つか、恥ずかしいからやめて。つか、清楚とやらしいって真逆じゃん……ていうか清楚とか、男に使わなくない?」
「だからどっちもあるから最強なんだって……清楚じゃないなら、なんて言うのかな。……清潔感? んー、ていうか。なんでもいいや」
むぎゅ、と抱き締められる。
「とにかく、すごく似合う。可愛いしカッコいい」
「――――……」
いちいち抱き締められてて、なかなか、進まない。
と突っ込みは入れたいのだけれど。
……なんかもう、大好きって感じでこんな風にされてると。
――――引きはがす気に、なれない。
(2024/7/2)
甘すぎ? or 足りない? どっちだろ。
+追加。
浴衣、男は右が下って書いてたんですけど。男女一緒だったみたいです。
違うと思いこんでた~。洋服は違うけど和服は一緒らしいです。(娘の着せる時は調べてやってたので大丈夫(笑))勘違いしてました~💦 教えて下さってありがとうございます♡
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